ダイエットとは

社会人になって初めての残業をした日は、天気予報に嘘をつかれた日だった。

「雨降ってやがる…」

駅を出て驚いた。会社を出た時は降っていなかったはずなのに、急に土砂降りなんて聞いてない。傘なんて持ってないがタクシーに乗るのは勿体無い。駅からマンションまで徒歩20分かあーと肩を落とした。

「よっし」

仕方ない、帰ったら急いでお風呂に入ればいいやと意を決して土砂降りの中に足を踏み込んだその時、後ろからバッグを引っ張られてよろける。誰?なに?!と睨むようにして振り返って、引っ張ったのが銀時だと知った。

「馬鹿、濡れんだろーが」

「傘、ないし…」

「コンビニで買え」

ったく、と言いたげな銀時が黒い大きな傘を広げる。そして私の方を見て「入れば?」と言った。

「いいの?」

「同じところ帰んだしな」

さっさと歩け置いてくぞーと本当に歩き出した銀時を小走りで追いかけ、傘の中に入る。ありがとうと銀時を見上げて、相合傘ではないか!と気付いた。

「折りたたみくらい持ち歩け。お前昔っから雨に濡れんとすぐ風邪引くんだから」

「えっ?あっ、うん、はい」

「社会人っつーのは体調管理も仕事のうちだかんな〜はい、今のメモしとくように」

「メモ?!メモメモ…」

「馬っ鹿、なに本気でメモ取ろうとしてんだよ」

「ええっ?」

相合傘に気を取られて銀時の話をちゃんと聞いていなかった。馬鹿とデコピンをされてごめんなんて言ってしまうほど、話を聞いていなかった。痛いと額を抑えた私に銀時が「飯、どーすんの?」と言った。

「飯?夕飯ってこと?」

「そ。食った?つか今日帰り遅くね?」

「あー、残業した。初めて」

「へー。そりゃお疲れさん」

「銀時も残業でしょ。お疲れ様」

「じゃあ飯は?食ってねーの?」

「うん、適当になんか買ってく」

「まだ買い弁続けてんのかよ。ちっとは美容と健康気にしろっつーの。見てみろその二の腕」

「むっかつく!!」

言葉では強気で返していても好きな人から遠回しといえどデブと言われるのは非常に胸が痛む。ダイエットしようと強く心に決め、コンビニに寄ることをやめる。

「は?なに?いいの?」

コンビニを通り過ぎようとした私を不思議そうに見る銀時が「飯は?」と言った。誰のせいで食べるのやめたと思ってるのだ。

「二の腕やばいって言われたからダイエットする」

「そんな不健康なダイエットぜってー失敗するっつーの」

「しない。大丈夫痩せれる」

「そりゃ食わなきゃ痩せんけど。健康面どーすんだよ」

「サプリで補う」

「早死にすんぞ」

「いいもん別にー」

べーっと舌を出した私に溜息を吐いた銀時が「俺がヘルシーなの作ってやろうか」と言った。

「は?なに?ヘルシー?」

「そ。ダイエット食とまではいかねーけど」

「そんなのも作れるの?」

「あったりめーよ。誰だと思ってんの?頼りになる男前、銀さんよ?」

つかそんな太ってねーよなまえは、と言われればダイエットなんてどうでもいいかなと思えてしまう。私の決意は銀時の言葉一つで決まるものなのだ。

「じゃあ作ってもらおーかな!頼りになる男前銀さんに!」

ダイエットなんてどうでもいいけど、銀時とご飯が食べれるならそれが優先事項である。