08



「あっ…」
「なにしてんでさァ、こんなところで」


それはこちらの台詞である。
駅前の交差点で、警察官の格好をした沖田さんと会った。そういえば沖田さんの仕事って…


「じろじろ見るんじゃねえや、ストーカーでしょっぴくぞ」
「ストーカーではないんです」
「嘘つけィ、あそこでパチンコ屋の前の行ったり来たりしてるのお前の友達だろうが」
「さっちゃん…」


沖田さんが指差す方にはさっちゃんがいた。待ち合わせがパチンコ屋の前だという時点で薄々気づいていたが、今日も銀さんという人を追いかけ回しているらしい。


「まっ、あいつが旦那のケツ追いかけてんのは今に始まったことじゃありやせんけど」
「そうですね、8年経ちますね」
「高校の頃なんてひどいもんでしたぜィ、毎日担任のあと追いかけ回して彼女面してやしたからねィ」


なんとも簡単に想像できた。隠し撮りした写真に自分の写真を合成して部屋に飾るような子だ、それくらいしているだろう。
あのメス豚と出掛けるんで?と言われ頷けば暇ですねィと言われた。


「こう見えても忙しいんですよ?」
「忙しいやつは平日の真昼間にパチンコ屋の前で待ち合わせなんてしねえだろィ」
「それは…」


平日が休みなのだ。私もさっちゃんも。
就活に失敗した私はフリーター活動しかしていない。さっちゃんは就職してたけど銀さんを追いかけ回したいが為にやめたらしい。


「飯食ったか」
「へ?飯?」
「こないだ待ってたんだろィ。土方に言われたんでさァ、アンタが2時間も待ってたって」


バツの悪そうに頭をかきながら沖田さんは悪かったなァと小さく呟いた。悪かっただなんて、そんなのっ。私が勝手に待っていただけだ、土方さんが言うように2時間も待ってた私がおかしいのだ変なのだ。
2時間も待ってただなんてストーカーと思われたらどうしよう。


「ストーカーではないんです本当に、信じてください」
「んなこと心配してねえよ」
「2時間待ってたっていうか、沖田さんのこと考えてたら2時間経ってたっていうか」
「それはそれで気持ち悪い」
「あっ!そうじゃなくてですね」


気持ち悪いって言われてしまった。確かに沖田さんのこと考えてたら2時間経ってましたっていうのは気持ち悪い気がする。
すみませんと言えば笑われてしまった。


「それで、飯は食ったんで?」
「いえまだ…さっちゃんと食べようってなってて」
「あいつならほっといても平気でしょう」


自転車を漕ぎ出した沖田さんにハテナがたくさん浮かんだ。警察官だなんてかっこいいなと後ろ姿を見ていれば沖田さんが振り返り目が合ってしまう。怪訝そうな顔をされてしまいやっぱりストーカーだと思われたかもと不安になった。


「なにしてんでィ、早くしなせえよ」
「えっ?」
「だから飯」
「飯?」
「食ってねえんだろィ」
「あぁ、はいまだ」
「食い行くぞって言ってんでさァ」
「!私と沖田さんが一緒にですか?」
「他にこの会話で誰が出てくるんでィ」


あそこのメス豚は誘うんじゃねえぞィ
私は急いで携帯を取り出しすぐそこにいるさっちゃんへ電話をかけた。ごめんさっちゃん。沖田さんが誘ってくれたのに断れない!この埋め合わせは必ずするから今日のところは銀さんを目一杯追いかけていて欲しい。
さっちゃんに早口で「沖田さんに誘われた!この埋め合わせは必ずする!ごめん!」と伝えれば周囲を見渡したさっちゃんが私に気づいてくれた。そして親指を立て「安心して、銀さんもそろそろ出てきそうなの。今日は負けたみたい」と言われた。さすが幼馴染、急な予定変更くらいでは怒らないらしい。


「なに食いてえ?」
「なんでもいいです、沖田さんの食べたいもので」
「犬のエサ以外ならなんでも」
「犬のエサ?」
「知らねえの?土方スペシャル」
「そういえばこないだそんなこと言ってましたね」


歩く私と自転車の沖田さん。
沖田さんは降りて一緒に歩いてくれるわけではなかったが、なるべくゆっくりと漕いでくれていた。ほらね、優しい。


「沖田さんお仕事は?」
「あと1時間で上がり」
「あ、じゃあどっかで待ってます」
「だけど土方さんのことだからもう出勤してんだろうし1時間早く上がるくらいどうってことねえだろィ」


警察官ってもっとお堅い職業なのかと思っていた。ハンバーグとパスタどっちがいい?と聞かれパスタの方が好きですと答えた私に沖田さんは「ちょっとそこ曲がったところに美味いハンバーグ屋があってねィ」と言う。


1時間くらいなら早上がりできると思ってるところや私にどっちがいいか聞いといて意見丸無視するところなど、この人の自由そうなところがまたいい。
恋は盲目なくらいがちょうどいいのかもしれない。


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