07



「2時間!?」


マジかよ…と笑顔を引きつらせた土方さんとラーメン屋さんにきていた。声をかけられニヤつきながら腹を鳴らした私を不審がりながらもラーメンへ誘ってくれたのだ。

こんな時間に駅にいるなんて予定でもあったんじゃないのか?と聞かれたので素直に沖田さんを待っていたけど忘れてたみたいでと答えた。
最初こそあまり興味無さそうに聞いていた土方さんだったが、2時間待ってたらお腹すいちゃってと言った私に驚いたらしい。冒頭にあるよう大きな声で笑顔を引きつらせてくださった。


「おまっ…その間に連絡しなかったのかよ」
「急かしてるみたいじゃないですか」
「急かせよ、言い出したのはあいつなんだろ?つか俺なら2時間も待たねえよ、帰る」
「帰るだなんて…だって私が帰った後沖田さんが来てくださって入れ違いになったら…」
「総悟は2時間も人を待たねえから安心しろ」


2時間はねえわ、2時間は。
変な物を見るかのように眉をひそめこちらを見られた。


「でも沖田さんのことを考えたら2時間なんてあっという間でしたよ」
「あぁ…そういえばお前猿飛の友達だもんな、そうかそういうことか」
「ストーカーではないですよ?」
「予備軍みてえなもんだろ、手遅れになる前に自覚しといたほうがいいぞ」


こちら味噌ラーメン大盛りかためでございます、こちらはとんこつ塩ラーメンでございます。

ラーメン屋にしては丁寧な接客を受け、運ばれてきたラーメンを勢いよくすすった。熱い。
土方さんはマヨネーズは置いてないと言われたらしく不満気だ。
麺が伸びないうちに食べたい私は無言でラーメンをすすっていた。一緒にいるのがタイプジャストミートのイケメンだとしても関係ない、麺は待ってはくれないのだから。

「つーかよ、総悟のどこにそんな惚れ込む要素があったんだよ」

昨日なんかあったっけか
そろそろ食べ終わりそうだというころ土方さんは聞いてきた。

「迷い箸のくだりですかね」
「迷い箸?」
「はい。迷い箸です」

少し考える素振りを見せていたがすぐに分からねえわと言われてしまった。そして変な奴だと言われた。
どうしてさっちゃんも土方さんも分からないのだろう。私からしたら初めてこんなに惚れた要因なのに。

「まぁでも、頑張れよ」
「えっ、応援してくれるんですか?」
「はぁ?応援するなんか言ってねえよ。勝手に頑張れってだけだ」

伝票を持ち立ち上がった土方さんに続き私もレジへと向かう。個別でと言った私の意見を丸無視してとんこつ塩ラーメンの値段まで払ってくださった。

「自分の分は払います」
「別にこんくらい気にすんな」
「でもっ、沖田さんのご友人に奢ってもらうなんて申し訳ないじゃないですか」
「友人でもねえから気にすんな」
「!うっわ」


トンっとおでこを押された。突然の出来事に驚き鞄を落としてしまった。しっかりと閉じていなかった鞄から中身がぶちまかれてしまう。

「なにしてんだよ」
「あぁ…すみません」

ラーメンを食べさせてもらった上に、散乱した荷物を拾わせてしまった。沖田さんのご友人に。あぁ、きっとこれを土方さんは沖田さんに言って私は鈍臭い上に厚かましいストーカーというレッテルが貼られるんだ、きっとそうだそうに違いない。

「鈍臭えとは思ってるが厚かましいとは思ってねえよ、ストーカーについては知らねえが」
「脳内が覗けるのですか!」
「んなわけねえだろうが。全部口に出てたんだよやかましい」

荷物を鞄に詰め終え最後に携帯を拾った。そこには沖田さんからの着信が表示されている。

「ひ、土方さん…着信、着信があります」
「総悟からじゃねえーか。掛け直せば?」
「今何時ですか」
「てめえの手首についてるもんは何のためにあんだよ」
「23時過ぎてます」
「…だからなんだ」
「こんな夜分遅くに電話なんて出来ないっ」
「はあ?」


出来ない出来ない出来ない。
迷い箸を注意する人にこんな時間に電話なんてしたら、非常識だと思われてしまうかも知れない。

「お前が思ってるほど総悟は真っ当な人間じゃねえぞ」
「奢れって言っといて忘れてるような人ですもんね。それに初対面の私をブスって呼んでましたし」
「お前総悟に惚れてんじゃなかったのか?」
「?惚れてますけど」

よく分からねえと土方さんは歩き出した。携帯を開けばちょうど新着メッセージが来た。
"悪い、待ってたんだろ"

「あーもうっ土方さん!」
「うるせえ、叫ぶな時間考えろ。なんだよ」
「土方さんが思ってるほど悪い人じゃないと思います」
「は、なに、総悟の話か?」
「はい、沖田さんの話です」

ラーメンありがとうございましたご馳走様です
そう言って土方さんと分かれ家へと向かった。足取りは何とも軽く、心は温かい。

今日も沖田さんのいいところを知れた気がする、だなんて私はやっぱり変なのだろうか。



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