06



待ち合わせ場所に着いたのは8時を少し回った頃。若干遅れてしまい、もしかしたら沖田さんはもう待ってるかも知れないと焦ったが沖田さんはまだ来ていなかった。


仕事だと言っていたからまだ終わらないのかも知れないと壁に寄っ掛かりながら携帯をいじり時間を潰す。時折髪の毛や化粧のチェックをした。自分に自信はないけれど、少しでも可愛いと思ってもらいたい。


9時近くになり、さすがに連絡をしてみようかと思う。でも仕事してたら催促だなんて迷惑だろうし、もしかしたら今もう向かっていてあと少ししたら来るかも知れないと開いた新規メール作成画面を閉じた。今日が熱帯夜というほど暑くもなくてよかったと思う。


「ちょっとちょっとお姉さん、さっきからずっとここにいるよね?なに待ち合わせ?」

沖田さんまだかなと辺りを見渡していれば、なにやら頭の軽そうな男が馴れ馴れしくも肩に手を置きながら話しかけてきた。これは、まさかナンパというやつだろうか。

「聞いてる?相手は男?でも来なくない?ずっと待ってるもんねー?」

お姉さんここに一時間くらいいるっしょ?と言いながら男は笑っている。沖田さんもこの人と同じくらい髪の毛は明るかったのに、こんなに馬鹿そうには見えなかったなぁと思った。

「あの、もうすぐ来るらしいんで…すみません」
「あ、そうなの?なら良かったわー、この辺治安もよくないしお姉さんみたいな可愛い人いたら危ないでしょ?俺心配でさぁー」

そう言って離れてく男に手を振った。連絡は未だにないけれど、きっともうすぐ来ると思う。腕時計はもうすぐ10時になろうとしていた。
さすがに心配になった。もしかして事故に遭ったとか?それとも具合が悪いとか?
悶々と考えていれば余計に不安になった。どうしよう、なにか事件に巻き込まれていたら。
メールを送ろうとして画面を開いたけれど、電話のほうが手っ取り早いと思い打っていた文を消して通話ボタンを押した。

何度目かのコールの後、つながった。


「もしもーし」

昨日と変わらず元気そうな声に安心する。ああよかった、事故や事件には巻き込まれていなそうだ。

「あの、沖田さん今どの辺にいますか?」
「今ァ?ファミレス」
「…え?」


ファミレス?あれ?ご飯食べに行くって話は…

「おーい、急に黙るんじゃねえーや。おーいブースブスブスブス」

頭が一瞬フリーズしてしまった。ファミレスって、なにするところだっけ?あれ?


「沖田さん」
「おーやっと話し出したか、なんでィ」

電話なんざ用があったんだろィ?
電話の向こうで沖田さん以外の声がした。そしてその中には女の人だと思われる声も混じっていた。
"総悟くんー、誰ー?"と聞こえて目をゆっくり閉じた。おいお前が誰だ、総悟くんってなに?沖田さんって総悟ってお名前なの?


「おいブス、また黙りやがったか」
「あぁすみません。今日ってご飯に行く予定だったような気がして…あぁでも大丈夫です!私急用入ってしまって、それであの、連絡をと思いまして」
「飯?あー…そういえば今日だったねィ、やべ忘れてた。でもアンタも用事があったってんなら良かったでさァ。そんじゃまた今度いきやしょう」

はい、すみませんと言った私に沖田さんは「気にしなくていいですぜィ俺も忘れてたし」と言ってくれた。

一人舞い上がって気合い入れて2時間も待っていただなんて、言えるわけがない。それでも悲しいだとか虚しいだとかそんな気持ちにはならなかった。むしろ、忘れていたなら仕方ないよねなんて思えた。それもこれも沖田さんだから許せるってだけで、さっちゃんが2時間待たせておいてごめん忘れてたとか言いだしたらきっと大切に集めてる銀さん盗み撮り写真集を切り刻んだと思う。


「…あれ、アンタ昨日の」


お腹すいたな、帰ろうかなと携帯を鞄へしまっていると声をかけれらた。昨日?とそちらへ振り向けば土方さんが立っていた。
2時間待っていた私に、イケメンが降り立った瞬間である。なんていうミラクルだろう。


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