04




「いやまさかね、なまえがあの沖田狙いだなんて思わなかったわ。どちらかというと土方の方がタイプだと思っていたんだけど」
「狙いって…あぁそうそう、私のタイプを具現化したような人だよね土方さんって」
「でも沖田の連絡先を聞いてたじゃない」
「それは…」


ご飯だけを済ませ解散になった私たちは、今さっちゃんの家にいる。帰り際どうしても沖田さんの連絡先が知りたくてみんなの目の前で聞いた私に、さっちゃんが詳しく説明してくれるかしらと私を引きずるようにして自分の家に連れてきたのだ。


「ブスだなんだって言われてなかった?なまえもマゾヒストなの?」
「違うよ、そこは一緒にしないでお願い」
「じゃあなんで沖田なのよ、あいつ性癖だけなら銀さんと張り合えるくらい私を喜ばせることができる男よ」


それはえっと…どういう意味だろう。
私だってなんでタイプジャストミートの土方さんを差し置いて、沖田さんにストンと落ちたのか分からないのだ。
迷い箸だとかそういうところを嫌がり、あんな風に初対面の人相手でも注意できるところに弱いんだと思う。


「わからないけど、なんかもう沖田さんのためなら死んでもいいってくらいどっぷりハマってるんだよね」
「一目惚れ?」
「それは違うと思うんだけど…」
「よくわからないわね。でも一つだけ言えるのは、沖田に"沖田さんのためなら死んでもいい"だなんて言わないほうがいいわよ、じゃあ死ねって言われるわ」


あの人なら言いそうだ。
言わない言わないと言えばさっちゃんは私の携帯を取り出しにやついた。


「さっ、それじゃあ早速沖田に連絡しましょう。とりあえず"今日はお疲れ様でした、楽しかったです、今度デートしませんか?"ってところかしらね、送信っと」
「待って、送信?」
「ええ、送信」
「送信って?」
「そんなことも知らないの?送ったのよ、沖田に」
「な、なにを?」
「だから"今日はお疲れ様でした、楽しかったです、今度デートしませんか?"って」


声にならない叫び声が出た。本日一番の驚きである。
なんてことを送ってくれてんださっちゃん。私はさっちゃんと違って断られて"焦らしプレイね"なんていうポジティブシンキングができるわけでもそこに愉しみを見出せるタイプでもないのだ。

ああ、さっちゃん、頼むからほっといて。
そんな私の願いとは裏腹に楽しそうにさっちゃんは笑っていた。


沖田さんから返信がこないまま二時間が経ち、さすがのさっちゃんも余計なことしたかもってようやく気付いてくれたらしい。
勇気を出して連絡先を聞いたのに、二度と送ることがないまま終わってしまうかも知れない。さよなら私の恋、さよなら沖田さん。


「あっ、返信来たわよ!!」
「え、本当?」


さっちゃんが私の携帯を当たり前のようにいじる。待って、私にも見せて!沖田さんからの返信見せて!!


「"おやすみなせえ"…っですって。もう寝るんじゃない?」
「いやこれどう見てもめんどくさがられてるだけじゃない?」
「そんなことないわよ、"デートいつにしますか?おやすみなさい"これでいいんじゃないかしら」
「よくないよ、絶対よくないよ。しつこいって思われるよ!!」
「恋は当たって砕けろって言うじゃないの、押して押しまくるのがいいのよ。送信っと」
「砕ける前提で押しまくるのは如何なものかと思うんだけどって送信したの?」
「したわよ」
「…まさかと思うけどデートいつにしますか?って?」
「あとおやすみなさいもつけといたわ」


本日二回目、声にならない叫び声を上げた。
全力で奪い返した携帯には送信完了の文字が浮かんでいる。
涙で視界がぼやけてしまった。


prev next

[しおり/戻る]