03



"うちで一、二を争うモテ男"というだけあってさっちゃんの前に座る土方さんは大量のマヨネーズさえ目を瞑れば私の理想を具現化したような人だった。切れ長の目が印象的な整った顔に、先ほどトイレに行った際に知ったが背だって低くない。そして無駄にペラペラ話すわけでもなく、ほどよくついている筋肉。
こりゃモテるわと一人頷いていた。

そして私の目の前に座る沖田さんは土方さんと正反対のお目々がぱっちりくりくりの美少年だ。さっちゃんと同じクラスだったというのだから同い年なのだろうけど、年齢よりは低く見える。背は土方さんより低そうだがどちらかというと可愛い系の沖田さんにはぴったりだと思う。細くキメ細かい肌に女の子みたいな顔、だからと言って軟弱そうにも見えない。
この人もモテそうだなぁと思った。私は土方さんの方がタイプだけど、


「なに見てんでさァ、金取んぞブス」
「…す、すみません」
「そこの唐揚げ食わねえならこっち寄越しなせえ、どっかのバカがマヨネーズだらけにしちまったせいでこっちはまだサラダしか食ってねえんでィ」

沖田さんの隣でマヨネーズを唐揚げにかけていた土方さんが眉を動かした。不機嫌そうに沖田さんの方を睨みながら話し出す。

「どっかのバカって俺のことか?」
「別に土方さんだなんて言ってやせん」
「他に誰がマヨネーズかけてたんだよ」
「マヨネーズだらけにしちまったって自覚があるんならアンタのことなんじゃないんで?」
「…こんなうめえのになにが不満なんだか」
「こりゃ失礼。アンタは昔から犬のエサが好きでしたねィ」
「土方スペシャルのことか?」
「自分の名前にスペシャルとかつけて恥ずかしくないんですかィ」
「てめえ…」


マヨネーズのボトルを握りながら苛立ちを露わにした土方さんと煽りまくる沖田さんが喧嘩になってしまっては困ると、唐揚げのお皿を沖田さんの前にセッティングした。


「どうぞ!唐揚げお食べください、さっどうぞどうぞ」


だからお願い、ここで喧嘩しないで。そう願いを込めた。
沖田さんは唐揚げを頬張り真顔で「レモンかけるかどうか確認取るのが常識でさァ」と言った。そんなこと言われてもそれは私が食べようと取り分けてたやつだ。

私の中で沖田さんは関節を人質に取りさっちゃんをメス豚、私をブス、もう一人をバケモノと呼ぶような結構モラルに欠ける人だという印象だった。モテるだろうけど私は土方さんみたいなお顔立ちの方がタイプだ。性格にも難がありそうだしね。


合コンと呼べるのか分からない、ただ各々が運ばれてくる料理を食べるだけのその会はもちろん二軒目に行こうぜなんてことは起きそうもなかった。私はというと、どうにか土方さんの連絡先を聞けないだろうかと考えながら箸を進めていた。

新しく運ばれてきたお刺身の盛り合わせに手をつけようと箸を伸ばした時、私の視線は完全に土方さんにいっていて全然手元を見ていなかったのだ。
パシッと叩かれた手の甲に驚き視線を戻せば沖田さんが叩いたのだとわかった。


「迷い箸なんかすんじゃねえよ。さっさと取れ」

私はきっと間抜け面をしていたと思う。
そしてあろうことか胸がキュンっと跳ねた。


「あとさっき猿飛と箸と箸でサラダ取り分けてたろ、あれもやめろィ」


続けざまに言った沖田さんは私がまだ選べないでいたお刺身を取り、なにもなかったかのように食べている。


ギャップ萌えとかいうやつだろうか。
失礼な話だが一番そういう常識的なことに疎そうな沖田さんから注意されるとは思っていなかった。
単純なものである、私はたった今タイプど真ん中の土方さんよりも沖田さんに恋に落ちたのだった。


「おい、聞いてんのかブス。迷い箸はやめろっつってんでィ…聞いてねえやこのブス」

聞こえてます、聞いています。ただちょっと今、自分の気持ちに整理がつかないんです。


誤算だった。まさか、そんなまさか。
確かに甘いフェイスをされているとは思いますけど、私のタイプは土方さんのような方だ。
タイプなんてものはあまり当てにならないらしい。そして恋に落ちる時は一瞬で決まるらしい。しかもこんなことで。

バクバクと早まった心臓は痛いくらいで、弾けるんじゃないかと思った。


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