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さっちゃんに連れられやってきたお洒落な居酒屋には、既に参加者が揃っていて後からやってきた私とさっちゃんが店に入るなり一斉に視線が集まった。
なんてこった、先にきてる女子の顔面偏差値が動物園じゃないか。これは幹事役のさっちゃん、諮ったな。


「…ちょっとゴリラ!銀さんはどうしたのよ!!銀さんがいるっていうから私頑張って可愛い子揃えたのよ?銀さんどこよ!どこに隠したのよ!!」
「おいメス豚。どこに可愛い子がいるんでィ?どうみてもお前筆頭にバケモンじゃねえか、ふざけんな。こっちは暇じゃねえんだよ。近藤さんがどうしてもっつーからわざわざ金曜ロードショーのとなりのペドロ諦めて来てやったんだぞ。なんだこの妖怪ども」
「なに言ってるの、こっちのセリフよ。私だって銀さんいないって分かってたらこんなに必死に人数集めなんてしなかったわよ!!大体そっちが銀さん連れて来てくれるって言ったんじゃない!!なんとか言いなさいよゴリラ!!」


顔を合わせた瞬間、さっちゃんと栗毛色の男がなにやら言い合い始めた。ゴリラゴリラと言っているけど、どうみてもゴリラには見えない男。どちらかというとそのとなりの隣にいる人の方がゴリラちっくである。あれはゴリラだと思う。


「おい総悟。女性に失礼だぞ。猿飛すまんな、"銀さん"は誘えなかったがうちで一、二を争うモテ男トシと総悟を連れて来た。今回はこれで手を打ってくれないか」
「私は銀さん以外に興味がないの。銀さんがいない合コンなんて合コンじゃないわ」


帰りましょうと私の腕を掴んださっちゃんに、もう一人の女が立ち上がった。


「ちょっと猿飛さん。帰られちゃ困るわ、私三人も相手できないわよ」
「相手なんかしなくていいのよ、銀さんがいないんだもの。こんなのアレよ、ただのむさ苦しい集まりよ」


ふんっと鼻息荒く歩き出したさっちゃんに引っ張られ私も店から出ようとすれば、一番手前に座っていた栗毛色の男が私の腕を掴んだ。


「ふざけんなよィメス豚が。もう料理やら酒やら頼んじまってんでィ。てめえら帰ったら俺たちが多く払わなきゃならねえだろうが」


座れと言い男は私の腕を本来曲がる方向とは反対に捻る。


「痛い痛い痛い痛い。さっちゃん待って、この人私の関節人質に取ってる!やばい、関節持ってかれる!これ座らないと私の左腕が持ってかれるよ」


痛さで涙目になりながらさっちゃんに頼み込み、どうにか座ってもらえることになった。強引に連れて来られた挙句、腕を痛めただけである。
こうして、誰一人乗り気じゃない合コンが始まったのだった。切実に帰りたい。

一応自己紹介をすることになり、ゴリラに似てる人が近藤さん、その隣のさっきから料理にマヨネーズを嫌がらせかってほどかけてるのが土方さん、そして最後に私の関節をあらぬ方向へ曲げようとしたのが沖田さんだと知った。三人ともさっちゃんと高校三年間同じクラスだったらしい。
そしてさっちゃんの仕事仲間だという女の人の名前は分からない。女側の自己紹介は誰一人興味がないらしく、騒がしかったので聞こえなかった。


「さっちゃん、なんでこんなことになったの?」
「あそこにいるゴリラが…あ、近藤っていうんだけど。もう8年もある女に振られてて、出逢いが欲しいって言っていたのよ」


むしゃむしゃとサラダを食べるさっちゃんも、かれこれ8年は想い人の銀さんとかいう人に振られ続けてる気がする。それでも出逢いなんて欲しがらない辺りは本当に尊敬している。


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