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着いたとメッセージを受け取り家を出れば、一台の車が玄関先に停まっていた。私に気づいた沖田さんが助手席に乗るように促す。


「えっと、こんばんは…?」
「…どこ行きてェ?」
「えっ?」
「だからどこ行きてェって聞いてんでさァ」


こんな時間にどこか行きたいところと聞かれてもー…。今日の沖田さんはなんだか、いつもと少し違う。なんて答えればいいか分からなくて瞬きが多くなってしまう。えっとえっと、と口籠もった私を例のごとく放置した沖田さんは車を発進させた。どこに向かうのか分からないまま、無言が痛いほど続いてく。
見慣れた道に出たと思えば、沖田さんのマンションが見えた。


「どこに、」
「俺ァ明日仕事なんでねィ。帰って寝るんでさァ」
「えっ?!」


ちょっと待って。私ここで降ろされて帰れとか言われるの?ええ?それは困る。もう電車も動いてないし、寒いし暗いし歩いて帰るには…。ああいいや、タクシーで帰ろう。なんで呼び出されたんだろう?と赤信号を眺めた。そしてある答えにたどり着く。やっぱり明日のお弁当の日を忘れてたこと怒ってるんだ…!私が言い出したくせに勝手に忘れてなかったことになんかしたから怒ってるんだ。自分勝手すぎるってこと?そういうこと?あわあわしながら運転してる沖田さんの腕を掴んだ。


「は?おいっ、危ねェーだろ!何考えてんでィこのブス!!」
「ごめんなさいすみません許してください。悪気はなかったんです、本当にうっかりで」
「悪気がねェならさっさと手離しなせェ。事故らせてェーのかアンタ」
「嫌です、だって怒ってるじゃないですか!!」
「そりゃ怒んだろーが!!いいからっおい!手を離せっ」
「嫌です!!」
「ばっ、こんのブスっ!!」


キキーィっと急ブレーキで停まった車。うおっ!とシートベルトに体を守られ、突然のことにばくばくする心臓に気持ち悪くなった。


「おきっ、沖田さん、安全運転をっ」
「誰のせいだと思ってんでさァ。アンタねェ、運転してる人の腕掴んで揺さぶるって、馬鹿にも程があらァ」
「だって、怒ってるから…」
「だからそんなことされたら誰だって…」


あー疲れた、どっと疲れちまった。とドスンと体を背もたれに預けた沖田さんが私を睨む。


「俺ァ最近夜も満足に寝れねェーんでさァ」
「は?えっ」
「は?じゃねェーや。誰のせいだと思ってんでィ」
「えっと、誰のせいですか?」


私を睨んでいた沖田さんがため息を吐いた。そして「何か隠してることはねェーか」と言う。隠してること、と言われてどきりとした。もしや、クリスマスプレゼントのことに気づいて…?私なんかの手編みニット帽は要らないってこと?不器用なのはもうバレてるし、とんでもなく汚いものを押し付けられると思って嫌悪感から夜も眠れないってこと?
あからさまにぎくっとした私に沖田さんは「勝手な女だねィ」と皮肉っぽく言う。


「あっ、でも、さっちゃんに聞きながら一番無難な方法で…」
「猿飛に聞くことじゃねェーだろィ。俺に言えばいい」
「でもそれじゃあ、意味がないと言いますか」


サプライズプレゼントを本人に話してしまっては意味がない。もはやサプライズをするなってことだろうか。ん?ん?とテンパる私と、不機嫌沖田さん。


「あの、明日もお仕事ですよね?時間が時間ですし、その、寝たほうが…」


タクシーで帰るからここでいいです、と駅前の信号のところで停まっていて良かったと思った。降りようとドアに手をかけた私を沖田さんが「おい」と呼び止める。やばい、なんかまだ怒ってる…と恐る恐る振り返れば、真剣な顔した沖田さんが「もう俺はいいって、はっきり言ってくれやせんか」と言った。


「え?いいって?え?」


事態が飲み込めずえ?え?と繰り返す私を睨みつける沖田さんは何故か少し悲しげで…
俺ばっか馬鹿みてェーと消え入りそうな声で言った。

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