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幼馴染のさっちゃんこと猿飛あやめからお昼過ぎ、急にメールが届いた。今夜空いてる?だけしか聞いてくれない辺り、あまりいい誘いではなさそうだ。予定なんて撮り溜めしてあるドラマを観るくらいしかなかったけど、面倒くさい誘いだったら怖いから"まだわからないけどどうしたの?"とどちらに転んでも大丈夫そうな返信をした。

すると今度は電話がかかってきた。これはもしかしたらなにか急用なのかも知れない。幼馴染を疑うなんて私も心が狭すぎやしないかと急いで出た。


「どうしたの?なにかあった?」
「今夜どうしてもなまえに来てもらいたいの」
「え?」
「お願い。ほら、大学受験の時勉強見てあげたでしょう?その時のことをまだ覚えているなら来て!理由は聞かずに頷いて、私を助けると思って了承して」


覚えている。覚えているよさっちゃん。本当に勉強してる私を見てただけだったよね、さっちゃん。
黙っていれば電話の向こうから「思い出したかしら?」と聞こえた。思い出すもなにも、さっちゃんはなにもしてなかったじゃないかあの時。


「覚えてるよ。覚えてるけど、さっちゃんに迷惑かけてないよね?私の家に毎日勝手に押しかけて黙って見てただけだよね?」
「銀さんへの愛を語らず黙っていたでしょ?おかげで勉強捗ったって喜んでたじゃない」


…確かにそれは感謝している。いつも騒がしく顔も知らないさっちゃんの好きな人の話を永遠と聞かされていた私は受験よりもそちらのせいで鬱になりかけていたのだから。


「あぁまあ、うん。嬉しかったよ、黙っててくれたことは」
「そうでしょう?じゃあ来てくれるわよね?」


さっちゃんは昔からこうだ。口では勝てない、他でも勝てないが。ものの捉え方が私とはまるで違うのだ。私とは、というよりきっと他人とはである。

大した予定があるわけじゃない、さっちゃんがこんなにお願いしてくるんだからきっとそれなりに重要なことなのだろうと勝手に解釈した私は了承した。


「よかった、これで人数が揃ったわ。じゃあ後で迎え行くからうんっとお洒落して待っててくれる?」
「待ってさっちゃん。人数が揃ったってなに?どういうこと?他にも人がいるの?」
「そりゃ他にもいるわよ。男も女もいるわ。合コンだもの」
「え?合コン?合コンってなに?聞いてないよ、やだよ行かな、」
「じゃあ後でね」
「待っ、」


プープーと電話特有の機械音だけが耳に残った。これは面倒くさい誘いだった。勝手に解釈した私が悪いけど、合コン如きで切羽詰った声でお願いだなんて言わないで欲しい。私を助けると思ってって、合コンでなにをするつもりなんだ。さっちゃんが行く合コンは命でも張り合うのだろうか。

面倒くさい。面倒くさいけど、きっとさっちゃんは居留守を使おうともトイレの窓や二階に位置する私の部屋の窓からでも容易く侵入してくるだろう。了承した時点で私の負けなのだ。

せっかくの休みなのに、私は昼過ぎからシャワー浴びさっちゃんの迎えに来る時間が分からないために、支度を始めた。


合コンなんて大学生の時ぶりで少しだけ緊張感した。


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