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「よしできた」


包み終えたお弁当。量を考えろと言われて、初めて作った時より小さくなったお弁当。それでも足りなかったら嫌だなと、気持ち多めに作っている。毎日押しかけるのは申し訳なくて、1ヶ月に一回と決めた沖田さんへの差し入れは今日で5回目を迎えた。


「こんにちはー」
「…交番にこんにちはって入ってくるやつお前くらいだわ」


5回目ともなるとそこまで緊張もしなくなる。へへっと笑った私を呆れたように見た土方さんが「総悟ー」と奥へと続くドアから呼んでくれた。ひょっこり顔を出した沖田さんが「だから量考えろって…」とお弁当を見て呟く。だって足りなかったら嫌だし、お腹いっぱい食べて欲しい。


「残ったら私食べます!!」
「アンタそれが目当てですかィ?変態」
「あっ、いや!そういうわけじゃないんですけど…でも沖田さんの食べ残しはえっと」
「ちょっと聞きやしたァ土方さん?このブス俺の使った箸を舐めてェーらしいですぜィ」
「わっ!!そこまでは!!そこまでは考えてないです!!間接キスできたらそれはそれでオイシイですけど!!」
「…引くわ」
「えっ!!」


そんなやり取りをしていると奥から土方さんが「うるせーから休憩がてら二人で食ってこい」と言う。それはさすがに無理だろうと思っていれば、沖田さんが「土方さんがいいって言うんなら休憩3時間くらい行ってきやす」と言うもんだから目を見開いてしまった。


「なんでィ。俺と飯食うのは嫌なんで?」
「まさか。嬉しすぎて驚きました」
「あっそ」


3時間もあるわけねえだろ!と言う土方さんの言葉をガンスルーした沖田さんが行くぞと交番を出て行く。私も土方さんに頭を下げて「すぐ、食べたらすぐにお返ししますので少しだけお借りします、ありがとうございます」と言って後に続いた。
交番の近くにある公園のベンチに座り、「ん」と手を差し出した沖田さんにお弁当を渡した。


「魚…」
「あっ、はい!!初めて焼いてみました」
「骨取んのめんどくせェーんだよなァ、美味ェーけど」


ちらっとこちらを見た沖田さんに、ん?と首を傾げる。今度から魚を入れるときは骨を予め取り除いておこう。ばっちり合った目を、そらすことなくじっと見てくる沖田さんに「え?え?」とテンパる。なんで見られてるんだろう。なに?なんか変なもん入れたっけ?


「察し悪ィーなァ。骨でィ骨」


箸で魚を指され、理解した。骨を取れということか!!なんだか甘えられてるっていうか、頼りにされてるっていうか。いつもしっかりしていて、私を怒ってくれるような人なのに魚の骨ごときで私を頼るなんて…!


「頼ってんじゃねェーよィ。利用してるって言うんでさァ」
「甘えられるほど距離が近づいたのかなって思うことにします」
「その前向きさだけは褒めてやらァ」
「沖田さんに褒められた!!!」


うっせ、と言われてしまったけど全然気にしない。外でお弁当を一緒に食べるなんて、ピクニックでもしてるみたいだ。しかも!沖田さんの口に入る魚の骨を取り除けるなんて…。
ふふん、ふふふん、と鼻歌交じりに骨を取り除いていく。大きな骨を取り除いて小さな骨も取り除こうとした時、沖田さんが「べたべた触りすぎでさァ」と声を落とした。
慌てて顔をあげれば嫌そうに顔を歪めた沖田さんと目が合う。


「人の手がどんだけ雑菌まみれか知ってやす?」
「雑菌…?」
「アンタが持ってるそれはなんですかィ」


はあーと呆れたように指さされた箸。箸ですか?と聞けば貸しなせェとお弁当と箸を取り上げられてしまった。


「こうして、身を手で抑えなくても箸で…」


器用に箸を使って骨を取っていく沖田さん。手を汚さずに、綺麗に骨を取り除いた沖田さんが「人に食わせるもんなら、見た目もある程度気にしなせェーよ」と言った。


「折角美味ェーのに勿体ねェーだろィ」


いただきますと食べ始めた沖田さんから目が離せない。自由に、自分に忠実に生きてるところも魅力だけど、この人といると私自身がいい女になれる気がする。


「沖田さんって、言葉は強くて怖いかなって思うんですけど…すごい常識人っていうか、なんか、その」


やっぱ好きですと言ってしまった。言った後に恥ずかしくなって顔を背ける。でもだって、言いたかった。なんかもう、自然と口から出てしまったというか。


「アンタが礼儀を知らなすぎるだけでィ」


そう言った沖田さんは「相変わらず玉子焼きは綺麗だねィ」と言ってくれた。ズバズバ言う人だと知っているから、他の人に褒められるよりもずっとずっと嬉しく感じる。

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