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土方さんの後を隠れるようにして歩く。ガラッとドアを開ければギャンギャン言い合っていた二人がこちらへ一斉に目を向けた。


「どこほっつき歩いてんですかィ土方さん。俺にこんな珍獣押し付けて」
「ちょっと土方ァ!アンタどんな教育してんの、どんな教育してたら街中首輪つけて引きずり回されんのよ!!勘違いしないでくれる、私は銀さんにされたいの。誰でも彼でもされたいわけじゃないの」
「てめーこそ勘違いすんじゃねえや。俺だって好き好んでてめーみてーな珍獣散歩させてるわけじゃねーんでさァ。仕事!これが俺の仕事なんでィ」
「聞いたことも見たこともないわよ、首輪持ち歩いてる警察なんて!!」
「そうかィそうかィ。なら経験できてよかったなァ。人生何事も経験だって言いやすし」


言い合いを再開した二人は私に気づいてないらしい。ギャンギャンヒートアップしていくそれに土方さんは深く深く溜息をついた。


「うるせえわ。ほら総悟はこっち、猿飛お前はこっち」


お重を沖田さんへ、私の手を引いて私をさっちゃんへと差し出した土方さん。最初から土方さんの後ろに居たつもりだが、突如現れた私に二人の言い争いが一時休戦を迎えた。
急に黙られ、お腹が痛くなりそうだ。これは私が何か話した方がいいの?何話す?何を話せばいい?
どうしていいかわからなくて、二人を見てるとなんだかやっぱり胸がもやもやして、土方さんの制服の袖を掴んだ。


「…お前なあ」


隠れんなと言った土方さん。どうしようどうしようと余計に土方さんの後ろに隠れれば沖田さんの「なんですかィこりゃァ」という声が聞こえた。二人きりならまだちゃんと話せると思う。でもこんなに人が居て、しかもお重をキモがられたらどうしようとか当たり前だけどさっちゃんと仲良いんだよなあとか、なんかいろいろ考えがまとまらなくて頭がぐちゃぐちゃして、土方さんの袖を掴む手に力が入ってしまう。


「あー…みょうじからの差し入れ」


そんな私を見兼ねて土方さんが答えてくれた。ホッと胸をなで下ろす。
会話もろくにできないなんて、私ってこんなやつだっけ?


「…へえ。俺はさっき飯食ってきたんで土方さんどーぞ」


そう言ってバタンとドアの閉まる音がした。さっちゃんの「はあ?沖田、アンタねえ!!」という声と土方さんの「やっぱそうなるか」という声が重なる。沖田さんの座っていたところを見ればもうその姿はなかった。そして奥へと繋がるドアを見て理解する。お弁当は断られた、そしてキモがられて奥の部屋へ逃げられたのだと。


「みょうじ、あのなあ、あいつは」
「さっちゃん、帰ろう。バイトの支度しなきゃ」


土方さんの言葉を遮り、さっちゃんを呼ぶ。土方さんは優しいから、というか気遣いそうだからきっと慰めの言葉をくれるんだろうけど。今優しい言葉なんて聞いたら、キモいストーカーのくせに泣き出してしまう自信しかない。涙は女の武器じゃない。沖田さんは泣き虫な女は好きじゃない気がする。


「沖田てんめぇ!!」


さっちゃんが私の顔を見てドアに向かって怒鳴る。ガラスに映った私は泣きそうな、変な顔をしていた。


「さっちゃん、違う、違うから!これ違うから!泣くとかじゃないから!」
「何言ってんの、なまえいつも泣きそうな時今みたいにブッサイクな顔してるじゃない!」
「ぶっ、ブサイク?!」
「そうよ!ブサイクよブサイク。結構ひどい顔してるわよ今!!」


尚更沖田さんなんて呼ばれたくない。そんな顔見せられるわけがない。やめてやめてとさっちゃんを引きずるようにして交番を後にした。土方さんにごめんなさいと言えば「別に謝るようなことはしてねーだろ」と言ってくれた。どこまでも優しい人だ。

帰り道、「お弁当は失敗だった」と言えばさっちゃんは「まだまだアピールの仕方はあるわ!」と笑ってくれた。


「一回壁にぶつかったくらいでうじうじしても仕方ないわ。そんな簡単に振り向くような相手は簡単に離れて行っちゃうかも知れないじゃない」


頑張るわよと鼻をフンと鳴らしたさっちゃんに頷く。
さっちゃんと話していると前向きになれる気がする。


「さっちゃん、本当にありがとう」
「何よ急に」


こんないい友達にもやもやしたなんて、私はかなり心が狭い人間らしい。そういうところから変わらないと沖田さんほどの素晴らしい人には見向きもしてもらえない気がした。

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