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どっどっどっと心臓が破裂しそうなくらい激しく動いている。さきほどさっちゃんと別れた、健闘をたたえ合い別れたのだがー…。
もうすぐそこに交番が見えるのに、見えるのに緊張から全くもって一歩も近づけていない。行こうと足を踏み出し慌てて戻るの繰り返しである。いや無理無理無理、仕事場に押しかけるとかもう本当にストーカーじゃない?私これストーカーなんじゃない?ああどうしよう、渡したふりして帰ろうか。しかしそれはさっちゃんに申し訳ない。さっちゃんは渡せただろうか?
そんなことをひたすら考えていれば背後からトンと肩を叩かれ、驚きのあまり変な声が出てしまった。


「ヒィ….!」
「なんつー声上げてんだ?えっと、なんだったっけな」


聞き覚えのある声に振り返れば、制服姿の土方さんだった。あっあっとテンパる私を頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと観察した土方さんは大事に抱えているお重を見て「なんだそれ」と呟いた。


「つーかこんなところで何してんだ?くるくる回って」
「いや、なにもしてな…くもないんですけど」
「は?変なこと考えてねーよな?やめろよ、知り合いなんかしょっ引きたくねえぞ」
「へっ変なことって例えばなんですか!!」
「俺の仕事増やすようなことだ。例えばな、お前の友達みてーなことすんなってことだ」


ほら、と指指す方を見ればさっちゃんが沖田さんに引きずられるように交番へ連れ込まれている。ええ?!と驚いた私に土方さんが「迷惑防止条例」と言った。


「もはやあれは恒例みてーなもんだけどな」
「そんなしょっちゅうお世話になってるんですか!」
「銀八がいちいち電話してくんだよ。ったく」


「私は何もしてないわよ!!あんたも知ってんでしょうが!!」と騒いでるさっちゃんを手錠…じゃなくて首輪?なんで首輪?…首輪をつけて引っ張る沖田さん。その姿に仲が良いんだなぁなんてー…。


「…お前あれ見て羨ましいのか?」
「え?」
「アレが羨ましくなったら終わりだぞ」
「いや、羨ましいというか」


羨ましいのだろうか?うーん、羨ましいのかなあ。ちらりと土方さんを見上げれば「ああ?」と目が合ってしまった。


「あっいやっ、え、と」


はあ、と溜息を吐いた土方さん。ざわざわと胃の辺りが気持ち悪い。そわそわする。ギュッとお重を抱きしめた。


「お前、名前なんつーんだっけ」

ぽりぽりと頭を掻く土方さんに「みょうじです」と答えれば二、三度繰り返し呟いた後「みょうじ、猿飛の引き取りに来いよ」と言った。


「引き取り?」
「いつもならそのまんま帰すけどな。ついでだ、どうせ一人じゃ入らねーんだろ」
「へ?」
「安心しろよ。総悟とアイツはなんもねーから。つかそんなことくらいお前が一番知ってんだろ」


ほら行くぞと歩き出した土方さんを追う。この人がモテると言われるのが本当によく分かる。そこまで言葉にしなくても、相手の考えを汲み取ってくれちゃう。


「待ってください、土方さん歩くの早いっていうか足が長いです」


スタスタ歩く土方さん。同じサル目ヒト科ヒト属とは思えない。足がなんでそんなに長いんだろうか、追いつくには少し走らなければならない。


「中身がっ、中身がスクランブルになるっ」
「やかましいわ、黙って歩けねえのお前」


めんどくさそうに振り返った土方さんは軽々とお重を持ち上げた。そんなに重いってわけじゃなかったけど…。


「これ、総悟にだよな?」
「はい。頑張れって言われたので頑張ったんですけど」
「…多くね?」
「頑張ったんです」
「いやそれは分かったんだけどよ。多くね?」
「朝はやく起きて頑張、」
「もういいわ、分かった分かった頑張ったのな」


それにしても多いわ、と歩き出した土方さんはやっぱりどこからどう見てもタイプなのに私は視界の端に映る沖田さんとさっちゃんを見てもやもやとしていた。なんだろうか、胃もたれ…な訳ないな。

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