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「はあ?!家に行ったのに何もなかったの?!」


有り得ない有り得ないと繰り返すさっちゃん。キーンと頭に響くほど大きな声に、ううっと耳を塞いだ。有り得なくないんだよ。しかも、その後に言われた言葉の方が有り得ないんだよ。頑張れって、頑張れって言われたんだよ!!


「沖田ってそんなやつだったかしら。なんだか私の知ってる沖田じゃないみたい…。はっ、もしかしてそれは他人の空似なんじゃ…」
「何言ってるの?沖田さんは沖田さんだよ。言葉はキツイけど本当に本当にいい人なの。ねえさっちゃん、どうしよう」
「どうしようって何がよ」
「好き!!!」
「あっそ!!!!良かったわね!!!」


私なんて今日もガン無視決め込まれたのよ?!と言うさっちゃんに笑顔を向ければポップコーンが投げられらてきた。食べ物を粗末にしてはいけません。


「でもまあ、本人から頑張れって言われたなら思う存分頑張りなさいよ。アピールよアピール」


むしゃむしゃとテーブルに広げたお菓子を食べながら言うさっちゃん。アピールって、何を頑張ればいいんだろう。うーん…、と答えた私にさっちゃんが「まずは仕事場に差し入れでも持って行ったら?」と言った。


「なにそれ、こいつ彼女面して来やがったとかキモがられない?」
「そんなんでキモがるならやめときなさいよ」
「いやいやいや…仕事場に?!差し入れだよ?!」
「銀さんならきっと嫌がる素振りを見せながら喜んでくれるわ。あの人ツンデレだから。今んところ受け入れてもらえたことはないけど」


それはツンデレの領域なのだろうか。私にはよく分からない。しかし何年も変わらず一人の人を追いかけられるさっちゃんは凄いと思う。私なら一度でも受け入れて貰えなかっただけで心折れそうなものだ。


「思い立ったら即行動よ。明日朝から一緒にお弁当作りましょう。私も銀さんに作る予定だから」
「えっ、明日?!」
「なに予定でもあるの?」
「夕方からバイトで…」
「昼間は暇じゃない、寝てるだけじゃない」
「そうなんだけど、」
「動かなきゃなにも変わらないわよ」


頑張れって言われたんでしょう?と言うさっちゃんの目が真剣で…。そうだ、私は頑張らなきゃならないんだったと再確認した。少しでも私の汚名を挽回しなければ。今のままでは奢られたままだし、尻軽だと思われてるかも知れないし。


「頑張る…!」
「そうよ!その気持ちがいつか必ず報われるのよ!!」


深夜0時過ぎ。私とさっちゃんは謎のテンションで手を取り合った。そして頑張ろうねと言い合い、朝のお弁当作りの為に就寝した。え、なんでさっちゃんうちで寝るんだろう…。ベッドが狭い。


朝5時に起こされた私は眠い目を無理矢理開き、さっちゃんの指導の元お弁当を作った。銀さんとやらに高校の頃から差し入れをしてるというさっちゃんは手馴れたもので…。可愛いお弁当を簡単そうに作っていく。私は何度も「違うそうじゃないの、こう!だから違うって言ってるでしょうが!!」と幼馴染にどやされていた。玉子焼きの切り方から、彩りに味付け。お弁当を作ったことのない私にはかなりの重労働だ。


「でっ、出来た…!」
「お疲れ様。なまえ意外と器用じゃない」
「器用なのはさっちゃんでしょ?凄いよ、私一人じゃこんなに作れなかった」
「凄いのはなまえのお母さんよ。冷蔵庫にこんなに使える食材が入ってるなんて」


目の前に連なるお弁当。凄いよ凄い。こんなに気合いの入ってるお弁当は小学校の運動会でしか見たことがない。はあ、と息が漏れた。朝から頑張った。私とても頑張ったと思う。
「おはよ〜あんたたち朝からなにガシャガシャしてんのよ」と起きてきたお母さんが連なるお重を見て目を見開いた。


「え…なに?今日なんの日なの?」


好きな人に差し入れだと答えればお母さんは呆れたように「作りすぎじゃない?」と笑った。私も少し作り過ぎだと思っていたところである。

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