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沖田さんは家に着くなりシャワーを貸してくれた。洗濯機は勝手に使えと言われたので、申し訳ないが拝借した。シャワーを浴び終えてから気づいた、着てたもの全部洗濯機に突っ込んだけど着替えなんて持っていない。

「どうしよう…」

バスタオルを身体に巻きつけ、そっと脱衣所のドアから沖田さんの姿を探す。音に気付いたのか沖田さんはひょっこり顔を覗かせた。

「なーにしてんでさァ」
「あっ、いや、その…着替えが…」
「…あぁ。全部洗っでるんで?」
「…はい。忘れてました」

すみませんと頭を下げれば沖田さんはちょっと待ってなせえよと言ってなにやらぶつくさ言いながら寝室へと行ってしまった。しばらくして戻ってきた沖田さんの手に剣道部と書いてあるジャージと沖田と刺繍してあるTシャツ、それからハーフパンツが握られている。

「パンツはボクサーとトランクスどっちがいいですかィ」
「えっ!」
「そりゃアンタ…俺しか住んでねえんだ、女物のパンツがあるわけねえでしょう」

ノーパンでもいいか
沖田さんは一人納得した様子でそれらを私に手渡した。乾燥機かけりゃすぐ乾くんでと言い残し。
ありがとうございますと頭を下げたものの、ノーパンでハーフパンツはなんだか変な感じがした。ステッチはチクチクするし股はスースーする。この年でノーパンになるとは思わなかった。

着替えを終えてゆっくりリビングへ向かえば、沖田さんはなにやらノートパソコンで動画を観ている。イヤホンをしている為、声をかけても気づいてもらえなそうだ。軽く肩を叩きながら画面をチラリと見れば、処刑の種類と出ていた。

「あぁ、終わりやした?服乾くまでその辺好きに使ってていいんで」
「あっ、はい、すみません…」

処刑の仕方って。警察の方はそんなことも勉強しなきゃいけないのか。
ソファーの端へ腰を下ろし、辺りを見渡した。テレビの隣に設置されてる本棚には拷問やら鬼畜攻めやらのあまり私が日頃目にしないようなタイトルの本が並んでいた。
好きに使ってていいと言われても、沖田さんの家でそんなことできるわけがない。チラチラ沖田さんを盗み見てはにやにやしたり、借りた服から香る沖田さんの家の匂いに幸せになっていた。

「…なに笑ってんでィ。気持ち悪い」
「わっ!すっ、すみません」

そんなことをしていれば振り返った沖田さんが眉をひそめながら気持ち悪いと言う。そりゃそうですよね、気持ち悪いですよね。私もそう思います。深呼吸してごめんなさい。チラチラ見ながら後ろ姿すらもかっこいいなぁとか思っててごめんなさい。

「アンタ、俺のこと好きなんで?」
「えっ?」
「連絡先聞いてきたり、二時間待たされた挙句ドタキャンされたのに怒らねえし。なんかにやにやしながらこっち見てたり人ん家で深呼吸したりしてやすし」

ガタンと立ち上がった沖田さんはニヤリと笑って私をソファーに押し倒した。なにがどうなってるの?
沖田さんの足が私の股の間へと入り込む。そのおかげで少し足を開いてしまった。

「俺が好きなら抱かせろよィ」

そう言って私の顎を抑えた沖田さんの整ったお顔が近づいてくる。キス、されるのかな…
沖田さんにどっぷりハマって何をされてもいいだなんて思っていた私はそのまま目を閉じた。
すると鼻をつままれる。
え?キスじゃなかったの?

「なーに抵抗せず受け入れようとしてるんでィ馬鹿」
「だっ、えっ?」

目を開ければ沖田さんは私の上から退き、ソファーにドスンと腰を下ろす。

「アンタねえ、誰にでもそうやって股開くんですかィ。そんな風に見えねえのに、スキモノなんですねィ」
「ちがっ!そんなことないです」
「ハッ。違わねえだろィ。まだ会ったばかりの男の家にノコノコついてきて、ノーパンでも気にせず過ごせてりゃ誰が見たって尻軽なメス豚ですぜ」

軽蔑するかのような目で見られて、私が取ってる行動はおかしいのだと理解した。でも沖田さんだからシャワーを借りたのだ。誰でも彼でもついていってるわけじゃない。それに、だって、何もしないって言ってたし、今だって好きなら抱かせろって言ったのは沖田さんで…

「好きだから、抱かれ…」
「そこがダメなんでさァ。アンタが俺に惚れてんだろうってことくらい分かりやす。んなに一々頬染めてりゃ嫌でも分からァ」

そんなに分かりやすかっただろうか。恥ずかしくなる。体を起こし、隣にちょこんと座れば沖田さんは雑誌を読み出した。

「付き合う前に身体の関係なんて持ったらアンタ一生セフレ以上にも以下にもなれやせんぜ」

女は行為する毎に妊娠するかもっていう事実があるんだからな
雑誌をめくりながら沖田さんは淡々と言った。好きなら抱かせろって言っていたけれど、私を試していたのだろうか。ギュッと握ったハーフパンツはシワになっていた。

「おっ、泣くんですかィ?女の武器は涙だとか思ってやす?俺は別に攻めてるんじゃねえーからな」
「泣きませんっ。沖田さんが至極真っ当なことを仰るので、自分がどれだけダメなやつか再確認したっていうか…」
「別にダメとは言ってねえや。てめえの人生どうしようがてめえの勝手だろィ。ただ、俺に惚れてるっつーならそこんところちゃんと理解できる女でくらいいなせえよ」

俺を惚れさせるくらい、いい女になりやがれ
そう言って私を方をチラリと見た沖田さんは真顔だった。

「そっ、それって!私にも可能性があるんですかね?」
「どうだかなァ。でもまあ、気にならねえような女だったら最初から連絡先も適当なの教えてやしたし、飯にも誘わねえ。んでもって家にも入れねえしヤってさよならしてたかも知れやせんねィ」

頑張りなせえよと笑った沖田さんにノックアウトされた、そんな日だった。笑顔も反則だけれど、こんな風に怒ってくれるところも反則だ。この人は私のツボを熟知してるかのように、突いてくる。


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