悪魔様が二回目の降臨をなされました


土方さんは本当に毎日店にやって来た。お得意さんだとおじさんは喜んでいるけど私としては監視されているようで複雑な心境である。
今日も例の如くやって来た土方さんは「しっかりやってんか?」と言った。洗い場から顔を少し出し「今日もおかげさまで忙しいです」と返す。親子丼土方スペシャルを注文した土方さんにお冷を持っていった。

「少しは慣れてきたんじゃねえか」

「そりゃ一ヶ月経ちましたからね」

「すぐ音を上げると思った」

その調子で頑張れよなんて言われてちょっと照れる。毎日監視に来られるし、私のこと嫌いなのかと思ってたのに頑張れなんて思ってくれてるらしい。なんだか怖い人という認識が少しづつ変わっていく。悪い人じゃないんだよなあとマヨネーズたっぷりの親子丼を食べる姿を横目に洗い物を再開した。

土方さんがやってくる時間はいつも大体昼時のピークを過ぎた頃だった。その為土方さんが帰れば店内は無人になり休憩となる。今日もいつも通り土方さんを見送りおじさんと休憩を取ろうとした。

「やってますかィ?」

ガラッとドアが開いて客がやって来た。賄いを作っていたおじさんが慌ててカウンターへ顔を出す。私も外しかけたエプロンを結び直した。

「さっき帰った男が居ただろィ。あいつはよく来るんで?」

「土方さんのことかい?ここんところ毎日来てくれてるお得意さんだよ」

なまえちゃん、とおじさんが呼ぶ。お冷を持ってカウンターへ向かって「げ」と心の声が漏れてしまった。フリーズした私をみておじさんが知り合いかい?と言う。知り合いというほどでもない。むしろ知り合いじゃないと思いたい、顔見知りも断りたいくらいだ。

「この子に会いに来てるんだよ」

そんな私の気持ちなど一ミリも気づかずおじさんは笑顔でその男に言った。男の子がにやりと笑って、私は鳥肌がブルっと立った。

「へえ。最近屯所で飯を食わねえと思ったらアンタといい仲になってたんですかィ」

「…違います」

「じゃあ野郎は何しに来てるんで?」

にやにやとする男の子に更に悪寒が走る。この人だけは好きになれない。この人だけは私の本能が危険信号を鳴らす、これでもかと鳴らすのだ。私は忘れてないんだぞ!と睨んでみれば男の子はさらに楽しそうに笑った。しまった、逆効果らしい。

「いい仲ってわけじゃなさそうなんだけどね。なんだかとても目をかけてるみたいだよ」

おじさんが私の顔を見て慌てて助け舟を出してくれた。しかしもっと早く気づいて欲しかった。なんだか嫌な予感がすると震える手でお冷を置く。

「野郎のお気に入りってことですかィ。なら俺のお気に入りでもあるわけだねィ」

よろしくなと差し出された手。言ってる意味がわからない。別に私は土方さんのお気に入りでもなんでもないのだ。毎日来てくれるようになったのだって私が何かやらかした時責任を取らなければならないから監視に来てるんだろうし…

「監視されてるだけですけど」

やんわりと握手を断ってみたが失敗だったらしい。男の子の興味を煽っただけだった。監視?と首を傾げた男の子が「どういうことですかィ」と言う。

「いろいろあってここで働く上でお世話になってるというか…」

土方さんと私はどういう関係なんだろうか。私が割ってしまった分の食器代はご厚意でおじさんがチャラにしてくれたし、土方さんに何も迷惑かけてない。責任を取ると言ってくれたけどそれは何に対してなんだろう。うまく説明できない私におじさんがまた助け舟を出してくれた。

「連帯保証人っていうのかな?身元保証人、保護者、そんな関係だよね?」

ああそうか、そうなるのか。
頷いた私に男の子は「なんですかィそれ。俺に内緒で面白そうなことしてるじゃねェーですかィ」と不敵に笑う。

「…えっと何か食べますか?」

「あー…じゃあアンタの得意なやつ頼まさァ」

「え?」

「ないんですかィ?」

おじさんと顔を見合わせる。料理ができないわけじゃないけど私は洗い物と配膳専門なのだ。ただのアルバイトなのだ。料理人はおじさんですと答えれば男の子は目を輝かせ「じゃあ野郎はアンタの手料理食ったことがないんですかィ」と言った。あるわけないだろう。

「ないですよ。多分なにか勘違いしてます。私と土方さんは親密な仲じゃないですよ。本当に監視されてるだけで」

「アンタこそ勘違いしてるぜ。野郎は確かに面倒見が良くて他人のフォローの為に生まれたような男だ。でもな、毎日ここに通うほど暇でもねェーんですぜ」

「つまりどういう意味ですか」

「アンタがお気に入りっつーことに変わりねェってことでさァ。それがなんでかは知らねェーが」

「…連帯保証人だからじゃないですか?」

「それを調べる為に俺がここにいるんでさァ。いいからなんか作りなせェーよ」

見た感じ私の方が年上なのにこの人はとんでもなく上から目線で来るタイプらしい。デフォルトで独裁者らしい。わざとらしくため息を吐いた私に「それから俺のことは総悟って呼びなせェ」と言った。

「アンタ俺より年上だろィ」

「多分」

「いくつ」

「二十七」

「野郎と同い年ですかィ。ババアだな」

…真選組は失礼な人が多いらしい。つか私をイラつかせる天才が多いらしい。オムライスを作った私に総悟くんは「見た目も味も普通すぎて飽きる」と言った。本当に何しに来たのだろうか、総悟くんはそれから毎日やって来るようになった。しかもお友達を引き連れて。