恋愛相談の謝礼は飲み代でお願い


「おー、今日も元気に働いてんな〜」

「銀さん!?」

開店に向けて看板を外へ出していると銀さんに声を掛けられた。こないだのお花見振りである。朝からどこへ行くのかと聞けばパチンコという答えが返ってきた。

「つーかさ、こないだのあれなんなの?やっぱ付き合った?」

「えっ?!」

「土方く、」

「わーわーわー!ちょ、ここ外!外だから!」

土方という名前だけで顔に火がついたかのように熱くなってしまう。大声を出した私を心配しておじさんまで出てきてしまった。

「どうしたの…って銀さんじゃないか」

「ちーす。ご無沙汰してまーす」

へらへらと挨拶する銀さん。まずい、おじさんにもこないだのお花見のことは詳しく話していない。醜態を晒したことも、土方さんとちょっとまあ色々あったことも何一つ言っていない。ここで銀さんがその話に触れるのは避けたかった。おじさんはもう私の気持ちを知っているし、別に必死に隠すことでもないけど…私のことを娘のように考えてくれているのを知っているから言いづらい。父親に自分の恋愛事情を赤裸々に話すようなタイプではないのだ。

「ぎっ、銀さん!今日の夜とかって何してる?暇?忙しい?」

「今日?特に何もないけど…なになに銀さんの魅力に気づいちゃった感じ?あーまあね分かるよ分かる。あんなマヨラーより銀さんの方がいい男だもんなー」

「それは違う」

「いてっ」

うんうん、と頷きながら頭を撫でられたので手を払った。違う、銀さんは確かにいい男だと思うけど私の中では土方さんが一番なのだ。なんの話?と言いたげに私と銀さんを交互に見るおじさんは少し不安そうな顔をしていた。

「なまえちゃん、土方さんのことはもう…」

「違います違いますよおじさん。銀さんに乗り換えたとかじゃなくて、」

「いやいや俺はいつでもウェルカムだよ?これからおっちゃんのことはお義父さんと呼んだ方がいい?」

「銀さんはちょっと黙ってて!」

「おー怖っ。そんなに睨むなっつーの」

で、どうした?今日の夜なんかあんのか?と銀さんが顔を覗き込んできた。ああそうだ、今日の夜…

「いろいろと話したいことがあるというか、報告があるというか…相談に乗ってもらったりもしたし…」

土方さんに関することになると急に言葉が弱くなってしまう。ああだめだ、思い出すだけで恥ずかしくなってしまう。赤くなっているであろう顔を見られたくなくて両腕を顔の前で交差させた。

「あー…それって二人きりの方がいいよな?」

「え?」

「神楽の前でする話でもねーんだろ?」

「ん?いや別に神楽ちゃんの前で、」

「だったらあれだよなー、うちよりどっか居酒屋の方がいいよなー。でも俺今金欠だしなあ」

「金欠なのにパチンコ行くの?」

「当たり前っしょ。一発千金、男はいつだって夢見るもんよ。この手一つで大金を掴みてーなって」

「…えっと、つまりどういうこと?」

「話聞いてあげるから奢ってください」

深々と頭を下げる銀さんに声を出して笑ってしまった。
少なからず私は銀さんを頼りにしてるところがある。実際助けてもらったこともあるし、話を聞いてもらったりもした。弱音を吐いたのも銀さんが初めてだし土方さんとは違うけどなぜか安心させられるのだ。

「あんまり高くないところにしてください」

私も深々と頭を下げれば銀さんは任せろとわしゃわしゃ頭を撫でてきた。じゃあ後でなとパチンコへ向かって行った銀さんに手を振った。


お疲れ様でしたーとおじさんに挨拶をして店を出れば「よっ」と銀さんが立っていた。まさか待ってくれてるとは思っていなかったから驚きすぎてバッグを落としてしまう。

「何してんだよ。あーあ、中身ぶちまいちまって」

「だって、」

「あー迎えにくるように見えなかったか?紳士だぜ俺」

「…びっくりした」

「ドキドキしちゃった?」

「ううん。ドキドキはしてない」

「土方くんじゃないとドキドキしねーか」

にやっと笑う銀さん。土方くんと名前が出ただけでドキドキする。もう私はずっぷりどっぷり土方さんにハマっているらしい。

「からかわないでよ」

「わりーわりー。いい反応すんからさー」

ほら荷物、とバッグを拾ってくれた銀さん。銀さんだって優しいし頼りになるのにトキメキとかそういった類の感情は芽生えなかった。それが私をひどく安心させる。誰でも良かったわけじゃない、土方さんだから好きになって土方さんだからこんなにもハマっているのだ。バッグのお礼を言ってから二人で歩き出す。銀さんの贔屓してる居酒屋に連れて行ってくれるらしい。

「で、土方くんの話だろ?」

「うっ、まあ、うん、そう」

「俺も気になってたんだよ。ほら花見の時さ〜」

あ、ここだよここ。そう言ってなんだかいい匂いがする店の前で足を止める。続きは飲みながらにしようぜと戸を引いた銀さんの後に続いた。
話したいことがある。男目線で聞きたいことがある。あのお花見以来、土方さんもなんだかよそよそしい気がしていた。私も恥ずかしくてまっすぐ目を見ることができなくなっていた。