昨日の金曜ロードショー観た?


「なまえちゃんも良かったら!おやっさんも!」

今日はなんだか真選組の皆さんのテンションが高いなと思っていれば近藤さんが懐から一枚の紙を取り出した。はいなまえちゃんの分、と渡されたそれには"恒例!春だよ花見だよ真選組だよ!"とでかでか書かれている。ああそういえばうちの近くの桜も咲き始めてたっけ。

「あー!近藤さん、残念だがその日俺は商店街の連中と花見だ」

私の後ろからおじさんが誘ってくれたのに悪いねと頭を掻いて言った。近藤さんもそりゃ残念だと眉を下げ笑っている。そしてその二人の目がこちらに向けられた。

「なまえちゃんは?」

「その日は毎年休みだから店のことは気にするんじゃないよ」

近藤さんとおじさんの言葉が重なってぽかんとしてしまった。私にはここに来る以外予定がない。

「これって、全員参加なんですか?」

「基本的にはね。勿論トシもいるぞ」

「えっ!」

ぱあっと表情が明るくなったのが自分でも分かって恥ずかしくなった。土方さんも行くんだ…なら私も行きたいけど…
大きく一番上に書かれている文字をもう一度見て首を捻る。真選組のお花見に私が行ってもいいのだろうか。私は真選組に入った覚えはない。

「部外者もいいんですか?」

「部外者かあー…寂しいなあー…」

「えっ、こっ近藤さん?!」

急に遠い目をしだす近藤さんにオロオロしてしまう。え?私何かおかしなこと言った?だって本当に私は真選組ではないし、ただのしがないパートアルバイトに部類される人間だ。
遠い目をした近藤さんの隣でおじさんまでもが「身内だと思っていたのは俺たちだけだったのか」と遠い目をしてボヤいた。いやいやいや!おじさんも真選組の方ではないですからね。普通に定食屋の店主ですよ。

「仲間だと思っていたのは俺たちの方だけだったんだな。勲傷つく」

「娘のように思っていたのは俺だけだったんだな。おじさんも傷ついた」

二人揃ってクッ!とわざとらしく目頭を押さえている。なに、してるんだろうこの人たち…。近藤さん?おじさん?と顔を覗き込めば「部外者ってなんだろう」「部外者っていうのはどういう意味なんだろう」とまたもや訳のわからない芝居掛かった台詞が投げかけられた。

「身内だと、思ってもいいんですか、ね?」

二人とも、と先ほどよりももっと覗き込む。その瞬間勢いよく顔を上げた二人は私の肩を掴み「勿論だとも!!」ととびっきりの笑顔を見せてくれた。いやだからなにこのB級映画みたいな芝居は。

「あっ、おやっさんも昨日の金曜ロードショー観ました?」

「おー!やっぱり近藤さんも?」

「はい。いつもはジブ○派なんですけどね?今回○ィズニーにもずっぽりハマってしまいまして」

「俺もなあ…いつもはジ○リを観てるんだけどねえ…むしろ○ブリ以外は観ないんだけどねえ」

昨日の金曜ロードショーはなんだったっけ。全然話についていけていない私を置いてけぼりに二人は盛り上がっていた。アナだかユキだかの話を心ゆくまでして、近藤さんは帰って行ってしまった。

「どうしよう…」

頂いた紙を眺めながら深い溜息が出る。おいでと言ってはくれたが、真選組の身内でもないのに私が行ったらアウェイではないだろうか。うーんうーんと首を捻っていると「おいババア」と後ろから頭突きをかまされた。

「痛いんだけど…?」

「首を左右に捻ってんから前後にも捻らせてやろうかなっていう可愛い若者の心遣いですぜィ」

「頼んでない嬉しくない」

「なにウーウー唸ってんでさァ」

とりあえずコーラ、と注文をしてカウンターに腰をかけた総悟くん。今日はちゃんと働いて来たらしい、疲れたァと頬杖をついた。

「これ、近藤さんが誘ってくれたんだけど…」

「あー、花見じゃねェーかィ」

瓶のコーラとキンキンに冷えているグラスを置けば注げと顎で指図されてしまった。そこはセルフなんですけど?!しかし総悟くんは何故だか憎めなくて、仕方なくコーラを注いでやる。あ、泡だらけになっちゃったけどまあいいか。総悟くんだし。もう少し注いであげよう。

「私部外者じゃん?行っていいのかなって」

「おい泡だらけになってやすぜ」

「土方さんも来るらしいから迷惑じゃなきゃ行きたいなとは思ってるんだけど」

「聞きなせェババア。泡立ってやがる」

「総悟くんはど、」

「泡って言ってんだろーが。テメェわざと無視すんじゃねェーや!」

「あ、ごめんごめんわざとじゃなかったんだけど」

「んな棒読みのごめん、本当に謝る奴は使いやせんぜ。なめんなババア」

「痛、い!!」

泡だらけのコーラは好まないらしい。総悟くんがデコピンをしてきた。しかもかなり痛い。こんなに痛いデコピンは生まれて初めてである。なにしてくれてんのこのガキ、今ので私の脳細胞が死んだらどうしてくれんの。
「ご注文はなんですかー?」と聞けば総悟くんはおやっさんが作るやつという注文をしてきた。

「そんなに私に作って欲しいの?」

「どんな耳してんでさァ。ぜってー嫌でィ」

「前は私のオムライスばっか食べてたくせに」

「そりゃあん時は仕方なかったんでさァ。じゃなきゃ連日別段美味くもねェーオムライス頼むわけねェーだろィ」

別段美味くないって…じゃあなんで頼んでたの。相変わらず失礼なクソガキに舌打ちをしてやった。あまり年上のお姉さんをいじめちゃいけません。

「悪かったね。なんの個性も感じられないオムライスで。別に注文してねなんて言ってないんだけどなあ」

「そんな無個性な平々凡々のオムライスを食いたがる野郎がいなきゃ俺だって頼まねェーって話でさァ」

…ん?総悟くんの言葉が引っかかって伝票へ走らせていたボールペンが止まった。その野郎っていうのは、もしかして土方さんだったりする、のかな。

「ねえ総悟くっ」

「なにぼさっとしてんでさァ。さっさとおやっさんに注文伝えなせェーよ。こっちとら来週末の花見に向けて処理しなきゃなんねェー仕事が山積みなんでさァ」

「あっ、ごめんっ。そうだよね珍しく仕事してるんだもんね」

「いつも真面目に仕事頑張ってる総悟様って言いなせェーよ」

「嘘は言えない」

「ぶちのめすぞこのクソアマ」

「ちょっ、店内でバズーカ構えるのやめてよ!なにそれ!どっから出したのさ!」

総悟くんとギャアギャア取っ組み合いをしていると出入り口が開いて、来客を知らせる音がした。激しく取っ組み合っていた私だが、今は勤務中なので「いらっしゃいませっ!!」とそのままのテンションでそちらへ顔を向ける。そしてその0.5秒後に後悔した。

「…なにしてんだテメェ等」

「え、っと…準備運動…?」

「サボってんのか」

「まさかそんなわけないじゃないですか。一生懸命接客中です」

「この店は春から新しくプロレス技でもメニューに取り入れたのかよ」

「…取り入れてないですすみません」

「遊んでねえで仕事しろ馬鹿」

顔を歪ませこちらを睨む土方さんの登場により慌てて手を離した。にやにやしながら私に「猫被ってんじゃねェーよババア」と言う総悟くんはこの際無視でいいだろう。相手になんかしてたら土方さんに幻滅されてしまうかも知れない。

「お疲れ様です。何にしますか?」

お冷を運び、伝票を取り出せば土方さんは「日替わり定食」を注文した。おじさんに土方さんの日替わり定食と総悟くんのお任せを伝える。はいよっと料理に取り掛かるおじさんの後ろで味噌汁やらサラダの準備を始めていればカウンター越しに総悟くんと土方さんの話し声が聞こえて聞き耳を立ててしまった。

「揶揄うのやめろ」

「俺のせいじゃありやせんぜ。あの女が俺にちょっかい出してくるんでさァ」

「お前が突っかかるからだろ」

「あれ?あれれ?もしかして土方さんヤキモチ妬いてやす?」

「はあ?どこにそんな要素があんだよ」

「自分はちょっかい出されてねェーからって俺に当たらないでもらいてェーもんでさァ」

「当たってねえっつーの」

どうだか〜とふざけた調子の総悟くん。それに一々真剣に言い返す土方さん。二人の会話が私のことでにやけてしまった。ふふっと上機嫌で聞き耳を立てていると総悟くんが「なんか近藤さんが花見に誘ったらしいですぜ」なんて言い出すから吹き出しそうになる。ちょっとちょっと、やめてよ土方さんに速攻報告するの!部外者だろとか言われたらさすがの私も凹んだりしちゃうんだから!
話を遮ろうと慌ててサラダを運んでみた。聞き耳立ててごめんなさい、もうしないから来るなとか部外者とかそういうのは私がいないところで言ってください。

「来んのか?」

「へ?」

「花見」

サラダですと会話に割り込んだ私へ投げかけられた言葉に目が丸くなる。直接聞いてくることは予想できていなかった。

「まだ、考え中で…」

部外者だと言われてもいいように、来るのかよとか溜息混じりで言われてもメンタルを保っていられるように。行くとも行かないとも言わず濁らせた。

「なんか予定でもあんのか?休みだろ」

「まあ、そんなところですかね?」

「…へえ。じゃあ来れそうなら来りゃいい。折角近藤さんが誘ったんだから」

「えっ」

予定なんてなにもないけど。土方さんが来てもいいって言うなら喜んで行きますけど。
あからさまに喜んだ顔をしている私を総悟くんがつまらなそうに横目で見てきた。そして「アンタら…」と溜息混じりに呟いた。
花見ってどんな手土産が喜ばれるんだろうか。