サプライズパーティーが全くサプライズじゃない件について


狙っていた親玉を取れて騒がしい屯所。本来なら生獲りして他の浪士の情報を得たかったが、斬っちまったもんは仕方がねえ。後処理を終えただろう山崎が「失礼します」とやってきた。

「やっぱり他の奴らはいなかったですね。土方さんが斬った奴一人でした。なんでも今日は攘夷と関係のないことで…」

「縁談だったんだろ」

「そうです。あれ?これ俺言ってましたっけ?」

「お前が縁談だろうから護衛もなにもつけてねえんじゃねえかって。だからこんないい天気の日に討ち入りなんざ行ったんだろうが」

連日続く張り込みで寝不足らしい。目の下にクマを作り、少しやつれた山崎が「そうでしたっけ」と笑ってごまかした。報告書だけあげてくれと言えばその前に少し仮眠を取ってもいいですかなんて言ってくるんだからこいつは俺をなめてるのかも知らねえ。

「ふざけんな。俺だって寝てねえ上に折角の非番返上で一仕事終えてきたんだぞ。寝言は寝て言え馬鹿」

「一仕事って…なんで斬っちゃったんですか。折角情報取れそうだったのに」

寝不足が続くと誰しもイライラする。俺もイライラしてるが山崎もイラついているらしい。お前誰に向かって口利いてんだコラ。こっちは三徹してんだぞ、一分一秒でも早く寝てえんだよ。

「おい。俺にもう一度剣を抜かせてえのか」

煙草を灰皿に置き膝を立てれば、山崎の顔色が変わった。これは卑怯な手だと思ったけど仕方ない。頼むからちょっと寝かせてくんね?もうなんか頭痛えんだわ、正常に判断出来てねえんだわ。俺だって貴重な情報源断つなんざ思ってなかったんだわ。

「すっすみません。急いで報告書上げます!」

即座に立ち上がり敬礼をしたかと思えば慌てて副長室を出て行った。山崎が力強く閉めた襖を確認して急いで布団を敷く。まじで眠い、本気で眠い。ったくなんでまた俺の珍しく前々から決まってた非番に討ち入りが重なるんだよ。少し眠りに着こうとした時またもや襖が開かれた。

「あり?寝ようとしてやした?俺たちには非番だろうが討ち入りにゃー呼び出すくせして自分は後のこと部下に任せて寝ようとしてやした?」

心底驚いた、軽蔑したと言いたげな顔した総悟だった。まじこいつなんなの。そもそも俺がここんとこ寝てねえのは誰のせいだと思ってんだこのクソガキ。お前だよお前。お前が溜めに溜めた書類やってやったんだよ。ふざけんなよ。と思ってもこいつに俺への感謝なんてものを期待しても意味がないことを知っている。

「はあ?寝ようとしてたように見えたか?そりゃ驚いた。布団の湿気を確認してただけなんだけどな」

「…アンタその苦し紛れの言い訳自分でも辛いなって思いやせんか?」

「…用件はなんだよ」

どすんと腰を下ろし俺の文机に置いてあった煎餅を当たり前の顔して食いだした総悟にため息しか出なかった。常にサボってるやつがどんな神経してりゃ、非番に少し仮眠を取ろうとした俺を咎められるんだろうか。

「ああ、なんか近藤さんが夕方まで少し出掛けてくれって言ってやした」

「は…?出掛けろって、なんでだよ」

「さあ?ボリ、非番だからじゃっバリッ、ねえんで?」

煎餅をボリボリ食べながら話すんじゃねえよ。お前俺のことなんだと思ってんの?あ、つかゴミはゴミ箱入れろよ。なんで空になった袋元あったところに戻してんの?つかなんで俺、どっか行けとか言われてんの?非番だぞ、非番くらいゆっくりさせてくれよ。

「そんじゃ。俺はきっちり伝えやしたからねィ」

総悟は隊服に落ちた煎餅のカスをパラパラと畳に叩き落とし出て行った。落ちたカスを見て舌打ちをする。俺寝てえんだけど。非番だからって気遣ってくれんなら寝させてくんねえかな。
総悟の散らかしたそれを片付けていれば「トシ〜」と近藤さんがやって来た。

「おー掃除中だったか?トシは本当に働き者だな」

コロコロをしてる俺を見て愉快そうに笑う近藤さん。いや俺だって別に好きで地べた這いずり回ってコロコロかけてるわけじゃねえよ。総悟がな?わざとかってくらい汚してったんだよ。なんか煎餅以外のゴミも落として行きやがったしな。

「どうしたんだ?」

「いやあ〜総悟から聞いてると思うんだけど。いつ出掛けるかなって」

総悟から聞いたもなにも、たった今聞いたんだけど。そんなに?!そんなに俺に出掛けて欲しいのか?!

「いやでも山崎から報告書が上がってくる予定なんだが…」

「それなら俺が確認しておこう」

任せろと言う近藤さん。いつもなら書類関連のことは俺に任せるくせに今日は自ら名乗りを上げてきた。なにがどうなっている?不審そうに目を細めた俺に近藤さんが「ここだけの話なんだが」と身を寄せてきた。

「今日がなんの日か知ってるか?」

「…五月五日だろ?子どもの日だっけか」

「半分正解!半分不正解だな!」

トシの誕生日だろう?と耳元で言われて思い出した。ああそうか、俺今日誕生日だったっけな。おめでとうと言われて少し照れくさい。

「それでな?サプライズパーティーをしようと思ってるんだ。これは内密に企画してるからトシが知らないのも無理はない。驚いたか?驚いただろ?」

「…今思いっきりその計画破綻してるけどな。まさかサプライズを本人に言うとは思わなかった」

「細かいことは気にするな。だからトシには夕方くらいまで出掛けてて欲しいんだよ」

ムフムフフフと笑う近藤さんはまだサプライズパーティーが上手くいくと思っているらしい。これは俺、パーティーの時知らなかったふりしなきゃならねえらしい。もう眠くて頭が痛い。なんならなんか目ん玉もしばしばしてきた。
どこか仮眠が取れそうなところにでも行くかと「分かった」と頷けば近藤さんが「ああそれと」と思い出したように口を開く。

「今日ご家族が居ただろう?縁談というくらいだ、女の子もいたんじゃないか?」

眠くてズキズキする頭を必死に働かせる。そういえばなんか居たな、そんなのも。

「女の子という年でもなかったか。なんせ七十六歳の縁談だからな。その年になっても縁談ができるなんて、羨ましい限りだ」

でかい口を開けて笑った近藤さんに疑問が生じた。居た、あの場に女は二人いた。だけどどう見てもありゃー…

「多分俺と同い年、いやもう少し下くらいの女が縁談相手だったよな…?」

はっきりと思い出せない顔をぼんやりと思い浮かべる。本当に縁談だったんだろうか。年が離れすぎていないか?もしかして俺が見逃しているだけであれは縁談じゃなくて裏取引か何か…そういえば大金が有ったような。

「近藤さん。少し野暮用を思い出しちまった」

「おう!行ってこい行ってこい!あ、でも夕方には帰ってきてくれよ。主役は居なきゃダメだぞ」

持っていたコロコロを近藤さんに渡し、先程の料亭へと向かう。あの女のことを少し調べるとするか。