ギブギブギブアンドテイクの優しさ


「いやぁ〜悪いね本当。こんなにご馳走になっちまって」

「いいんだよいいんだよ!なまえちゃんを助けてくれたお礼なんだから!」

「そっ?なら追加でパフェとか貰える?」

「パフェ?そんな洒落たもんは出せないけど今日は確かなまえちゃんが作ったプリンがあったはずだな」

助けてもらったお礼に銀さんをお店へと連れてきた。おじさんに先ほどの出来事と銀さんに助けられたと説明すれば、おじさんは慌てて得意料理を振る舞い出す。なまえちゃんがお世話になってるみたいで、なんて言いながら。そんなおじさんに少し照れくさくなる。もしも私の父親がおじさんだったら…私はもっと家を好きになれていたかも知れない。
おじさんに手伝いますと言ってみたが、なまえちゃんは大人しく座っててなんて言われてしまった。忙しなく銀さんをもてなすおじさんを見ながら甘やかされすぎてると思った。

「いいとこで働いてんじゃねーか」

「え?」

「飯は美味えし、自分の娘みたくお前のこと大事にしてるみてーだし」

喧嘩したのってあのおやっさん?とこちらを向いた銀さん。喧嘩?と一瞬なんの話だか分からなくて首を傾げてしまったけど、ああそうか、そういえばキャバクラで働く時に…

「おじさんと喧嘩なんてしないですよ」

「だよなあ。じゃあなに?土方くん?」

「ひっ、じかたっ、さんを知ってるんですか?」

まさか銀さんの口から土方さんの名前が出てくるとは思わなかった。驚きすぎて声が裏返ってしまう。そんな私を見てニヤァと笑った銀さんは「分かりやすっ」と言った。同じことをつい先日総悟くんにも言われた気がする。

「だってあれっしょ?付き合ってんでしょ?」

「つつつつつ付き合って、る?!」

「妙が言ってたぞ?キャバクラで働いてる彼女を連れ去りに来ちゃうなんて、結構小せー男なんだな〜」

「あれは違っ、そもそも彼女じゃないです!」

「違うの?」

「違います!」

「じゃあ土方くんの片想い?」

「それも違います!」

「ああなんだ。なまえちゃんの片想いか」

「それはっー…」

私の仕込んだプリンを食べながら、銀さんがにやにやとする。「あれ?否定しないの?」なんて目を三日月の形にして聞いてくる。否定すればいいのに否定できない。恥ずかしくて顔を背けた私を銀さんが笑った。

「もうやめてください!からかわないでください!」

「付き合ってないにしては仲良いみてーじゃん」

やめてくださいと強く言ったつもりなのに銀さんはニヤケ顔のまま私をからかう。もうっ!と厨房の方へ逃げようと腰を上げれば「今回の、あいつ関係だったろ」と急に真面目なトーンで話されてしまった。

「あいつ?」

「なまえちゃんのだーいすきな土方くん」

「なっ!だからそういうのはっ!」

真剣な声色だったから振り返ったのに!からかわれてただけだった!と銀さんを睨む。私の睨みは銀さんに全く通用しないらしい。いや、土方さんにも総悟くんにも通じたことないけど。いつも睨み返されるけど。
助けてもらった恩は絶対忘れないけど、からかわれたことも忘れてあげないからなと厨房の方へ足を伸ばしたとき、銀さんがやはり真面目なトーンで話し出した。

「これから増えんじゃねーの?こういうこと」

こういうこと?ぴたっと足を止め振り返れば、プリンを完食した銀さんがお代わりと手を伸ばす。まだ食べるの?別にいいんだけど、そんなに甘いものばっかりー…

「銀さんは今日何してたんですか?」

プリンを取りに冷蔵庫へ向かいながら話を振れば「新台打ってた」と返されて、なんだか頭にすごい衝撃を受けた気分になってしまう。パチンコのこと、だよね?え?ヒーローみたいな感じで現れたのにパチンコ帰りだったの?

「その帰りに私のこと見つけてくれたんですか?」

「あーまあ、そうなるのか?いや最初はね?なまえちゃんっつーか団子が落ちてたからさ」

…落ちてる団子に釣られて来たの?!男に囲まれた私じゃなくて?!えっ?
驚きというか…この感情は言葉で説明しづらいんだけどー…。

「どっちを先に見つけたかなんて気にすることじゃねーよ。結果俺はなまえちゃんを助けたわけだし?な?」

私の戸惑ってる顔を見て銀さんが励ましてくれたらしい。結果だけ見ればそうなのだ、助けてくれたヒーローなんだけども。

「団子食べたかっただけってことですよね?」

「仕方ねーよ。負けちまって一文無しになっちまったんだから」

良かったわ、腹一杯食えたし。と笑う銀さん。私のことはついでだったの?!
プリンを渡して銀さんが美味ェと食べる姿を眺めていれば銀さんは「それで、土方くんには言わねーの?」と言い出した。なんのこと?と首を傾げる私にはあーと盛大なため息を吐く。

「さっきの。明らかにあいつ関係だっただろ?」

「えっ?そうなんですか?」

「えっ?じゃねーわ。何見てたわけ?何聞いてたの?真選組の敵さんでしょ」

そうだったの?!全然気づかなかった。じゃああの写真は私のブサイクさを知らしめるためじゃなく、土方さんとの関係を言いたかったってこと?
ああー、と一人声を漏らす。なるほどなるほどそういうことか。真選組って敵が多いんだなあ、なんて。

「言っといた方がいいと思うけど?」

銀さんと目が合って、どきりとした。私より団子に気を取られてただとか、腹一杯食えたから良かったとか言うくせにその目はまっすぐ私に向けられている。目から伝わる。この人本当はー…

「私のこと心配してくれてるんですか?」

「そりゃ、知ってるやつだし。土方くんほどじゃないけど」

「土方さん?どうしてそこで土方さんが出てくるんですか?」

「キャバクラで働いてるだけで乗り込んでくるような男だぜ?今回のこと知ったら心配で心配で夜も眠れなくなんじゃねーの?」

それはないと思う。土方さんはそういうの絶対ないと思う。
総悟くんも銀さんも、土方さんと私をどうしてそういう風に思いたがるんだろうか。土方さんは私にそういった類の感情は持ち合わせないのだ。私が一方的に想ってるだけで。そしてそれに不満はない。

「言わないですよ。これ以上迷惑かけたくないですし」

「迷惑?どっちかっつーとあいつが迷惑かけてる方じゃねーの?真選組と関わるから今回みてーなことが起きるんだし」

私は土方さんにいつか必ず恩返しがしたい。これ以上迷惑を掛けず、いつか対等な立場で会話がしたい。今回のことだって私がもっと注意していれば良かっただけのことだ。土方さんに言うほどでもない。それにもしも、そんなことを言ってもう店に顔を出してもらえなくなったら?面倒見のいい土方さんのことだからないとは思うけどもしも、「そんなこと俺に言ってどうすんだ」とか「知らねえ」とか言われてめんどくさい女だと思われたら?ただでさえ迷惑を掛けまくって疑われているというのに、これ以上関係が悪化するようなことにはなりたくない。

「言わないです。だから銀さんも言わないでくださいね」

もっとプリン食べます?と言った私に銀さんは呆れたように息を吐いた。

「男は頼られた方が喜ぶもんだぞ」

「頼りすぎるのはどうかと思います」

「土方くんは頼られてーと思うけど?」

「それは銀さんが勝手に思ってるだけですよ」

はあーとわざとらしくため息を吐きやれやれと言うかのように首を振られてしまった。可愛げないと思われたかな?別にいい。男に甘えるのが可愛いのなら私は可愛くなくていい。

「じゃあなんかあったら俺に連絡すりゃーいい。これは甘えじゃねーぞ。ちゃんと報酬は貰うし依頼として受ける」

それなら文句ねえよな?と言った銀さんはプリンお代わりと言った。もう五個目になる。甘いものが好きなのかな?なら生クリームをトッピングしたら喜ぶだろうか。

「生クリーム、好きですか?」

「おー!大好きだわ」

土方さんと銀さんは似てないようでやっぱり似てると思う。面倒見がいいところとか、お人好しなところとか、好きなものばかり食べるところとか。

結局私は銀さんと連絡先を交換した。何かあったらすぐに連絡すること!と何度も念を押した銀さんは、報酬にまたプリンを作ってくれればいいと言った。おじさんも銀さんを気に入ったらしく、いつでも食べに来てくれなんていつの間にかポイントカードを作ったらしい。この日店のメニューに新しく宇治銀時丼が追加された。土方スペシャル同様、多分他の人は絶対に頼まないと思う。