どことなく似ている二人


「はあー…」

「どうしたんだ?溜息なんて」

午後三時過ぎ、真選組の方々も仕事でおじさんと二人きり。今までなら総悟くんが居座っていたけど、最近は土方さんにベッタリだ。お陰でまだお礼もお詫びもできていない。なんならあの土方スペシャルメニュー表もレジ下の棚に入れっぱなしである。

「いや、なんていうか…」

早く言わなきゃ早く言わなきゃと思えば思うほど、会話の糸口が見つけられない。そもそも私と土方さんはそこまで話を弾ませていたわけでもない。難しいんだな、人と会話するって。
うーんと首を捻る私におじさんが「ああそういえば」と振り返った。

「買い出しに行って来てくれる?帰りに団子屋でも寄って甘いものを食べて来な」

「え?」

「考え事する時は三丁目の団子屋が一番いいんだよ」

ニカッと歯を見せ笑うおじさんはメモに買い出しリストを書き出してくれた。レジからお金を取り出し「草団子を土産に忘れないように」と言った。私おじさんがいなくなったら生きていけるのだろうか。本当に何から何までお世話になって、実家にいた頃よりも大事にされている気がする。この優しさに甘えてばかりいられないよな、と団子屋の代金は自分で払うことにした。
スーパーで買い物を済まし、団子屋へ向かう。いつも家と店の往復だったからか、なんだか少しウキウキした。商店街の店はどこもかしこも、食欲の秋を謳っている。その宣伝と匂いにお昼はきちんと食べたはずなのに小腹が空いてきた。

「すみません、三色団子と草団子を包んでもらえますか?」

小腹が空いたけど食は一人より二人。つまり一人で食べるよりも誰かと食べた方がいい。団子屋の店先で一人ゆっくり考え事をしながら食べるのもいいかも知らない。でも、おじさんと二人で食べた方が絶対に美味しい。持ち帰りにしてもらって団子屋を出たところで、見知らぬ男三人組に行く手を阻まれた。

「みょうじなまえで間違いないな?」

一枚の写真を手に私を頭の先から足の先まで確認する男たち。「はあ…」なんて生返事しかでなかった。いやいや誰?その写真は何?背伸びして写真を覗き込む。

「土方さん…?」

私が店で働きだしたばかりの頃、土方さんの顔を見て町内を走り回った日の写真だった。私って他の人から見たらこんな顔してるんだ…と凹むくらいに写りが悪い。もっとマシな写真なかったのだろうか。もう少し可愛く撮ってくれてもいいのに。

「こんな写真もあるぞ」

にやにやした右の男が懐からまたも写真を取り出した。それはすまいるから出てくる土方さんと背負われている私。この日のことはあまり詳しく覚えていないけど、恥ずかしいことにいい年した女が真っ赤な顔して土方さんの首に腕を回しおぶられている。

「私って…意外と大胆だったんだ」

「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」

険しい顔した男が腕を掴んできた。そしてそのまま引っ張ってくる。いや何?誰?その写真どうするつもりなの?

「離してくださいっ、なんですか?誰ですか?!」

知らない人について行けない。ついこないだ土方さんから釘を刺されているのだ。話があるならここで聞くからどこかに連れて行こうとするのはやめて欲しい。忘れてるだけで知り合い?それともこの写真をネタに強請るつもりなのだろうか。お金なら出すから、出せる範囲で買い取るから。そのブサイクな写りの写真だけは消し去ってしまいたい。嫌だ嫌だ離してと騒ぐ私を鬱陶しそうな目で見る男たち。

「財布っ、財布出しますからっ」

「金なんか要らねえんだよ。俺たちが欲しいのはそんなもんじゃねえ」

いいから黙ってついて来いと怒鳴られた。いやだから、ついて行くのはだめなんだって。怒られたばかりだし、それはできない。何が目的なのか、どこへ連れて行きたいのか。
嫌だと腕をブンブン振っていれば、買ったばかりの団子が地面に落ちてしまった。「あっ」と視線を落とせば踏まれてしまった団子。おじさんと食べようと思ったのに。どうして私はいつもこう上手くいかないんだろう。

「警察呼びますよっ!!」

「安心しろ。これからその大好きな警察釣るんだからよ」

息してる間に会える保証はできねえけどなと笑う男のゲスい笑顔に、状況が理解できた。こないだ総悟くんが言っていたことはこういうことだったわけか。"殺されてもおかしくない"というのはそういうことか。
これは私が連れてかれてしまえばまた、土方さんに迷惑をかけてしまう。私のせいで土方さんに迷惑をかけるのは嫌だ。なら尚更この腕を離してもらわないと…と更に腕を強く振り解こうとすれば、男が舌打ちをした。そしてこのクソアマと腕を捻られる。こんなに手荒に扱われたことなんてない。普通の人生で関節を決められることなんてないはずだ。痛みと恐怖で離しての四文字さえ言えなくなってしまった。もうダメだ、そう思った時背後から聞き覚えのある声がした。

「この団子食わねーなら貰っちまうけどいい?」

男たちが振り返る。もちろん私も振り返った。今は団子よりも私を気にして欲しい。大柄な男三人に囲まれて関節を決められている私のことを心配して欲しい。
揺らいだ視界に映ったのは、腰に木刀を差し着物を着崩している銀髪の男だった。

「銀さっ」

「なまえちゃんじゃん。何してんの、こんなところで。なになに乱交?土方くんじゃ間に合わなかった感じ?分かるけどここじゃまずいでしょ。商店街だし?まだ明るいし?」

先ほど踏まれてしまった団子を食べながらふざけた口調でふざけたことを言い出す銀さん。へらへらしながらどうも〜なんて男たちに挨拶までしている。そんな状況じゃない。そんなふざけた状況じゃないのだ。

「あ?誰だテメェは」

リーダー格の男が銀さんへメンチを切った。それまでヘラヘラ団子を食べていた銀さんだったはずなのに、一気に目つきが変わる。

「オタクこそどちら様?」

「関係ねえだろう!」

私の三色団子とおじさんへの草団子を平らげた銀さんは目にも留まらぬ速さで木刀を抜いた。

「あっそ。普通人に名前を聞くなら先に名乗るべきだと思うけどね。あ、ちなみに俺は万事屋やってる坂田でーす」

口調はふざけてるのに目は全然笑っていない。いや元々銀さんは眠そうな顔してたように思うけど。でもそうじゃなくてー…

「土方さんみたい…」

木刀が男たちに当たる瞬間、反射的に目を閉じてしまった。次に目を開けた時男たちは全員伸びていて、銀さんは頭をボリボリ掻きながら「ああ言うときは彼氏でも呼びなさいよ」と面倒くさそうに言った。