探し求めてた可愛すぎない子


無断欠勤をしてしまった。おじさんには心配をかけてしまったことと、しばらく休みたいと謝りの連絡をしなければと思っていたのに。電源の切れた携帯を眺めて大きなため息を一つ。なにもやる気が起きない、何もしたくない。今回のことが有ろうと無かろうと、私は初めから疑われていたのだろうけど。

「でもあんな風に保護観察下だなんて言ってくれなくても良かったと思うんだけど」

居もしない土方さんは悪態をつく。部屋の壁に掛けられた時計を見てお店が混んでくる頃だろうとまたため息が出た。おじさん、忙しいかな?私が来なくて心配してくれてるかな。お世話になっといてこれはないよなと分かっているのに、体が動きたくないという。もういいやと全部投げ出したくなって、仕事を探しに1日ぶりに外へ出た。

仕事は簡単に見つからないらしい。そんなことお店で働く前から知っていたことだけど、やっぱり難しい。夕方になっても仕事が見つからず諦めけていたその時、すれ違った人にドンっと肩がぶつかってしまった。

「すみまっ、」

「悪ィー悪ィー。見えてなかったわ。大丈夫?」

振り返った私と、こちらを向き直してくれた男の人。くるくると跳ねている銀髪に着崩されている織の着物。腰に差された木刀に「あっ」と声が漏れてしまった。

「え?なに?知り合い?どっかで会ったことあったっけ?」

会ったことなんてない。会ったことなんてないけど、木刀といえど今のご時世刀をぶら下げている人は少ない。真選組…?まさか。だって見たことない。なにも答えない私に男の人は「あー分かった分かった。あれだろ?こないだ依頼してきた人だろ?覚えてます覚えてますって。いや本当に。で、あれからどうです?ストーカー被害は収まりました?」と早口で話出した。依頼?ストーカー被害?身に覚えのないことに首を横に振る。

「あれ違った?じゃあなに?ババアんとこの新しい従業員かなんか?それともすまいるの娘だっけ?それかかまっ娘倶楽部?」

全部違うし、最後のかまっ娘倶楽部ってなんだろう。さっきから一方的に話かけてくるし、もしかして変な人?腰に木刀ぶら下げてるし、関わらない方がいいと判断した。つい先日土方さんに怒られたばかりだし。

「本当に知りません。すみません、今度から気をつけます」

足早に過ぎ去ろうとした私の腕を思いっきり掴んだ男の人は「なんでもいいんだけどお姉さん今日暇?」と聞いてきた。ナンパなのかな?新手のナンパかなにか?不審に思って眉間を寄せた私に男の人は「怪しい者じゃないんだけどさ」と名刺を取り出し頼みがあると言った。


切羽詰まったように頼み込まれてついてきてしまった。名刺はなんだか簡易的なものだったし、これ土方さんにバレたらまた怒られるとがっつりついてきてから後悔した。しかし上がって上がってと通された家にはチャイナ服を着た女の子と眼鏡の真面目そうな男の子がいて少し安心する。

「銀さん誰ですか?その人」

「えーっと名前なんだっけ?」

「ちょっと!名前も知らない人連れてきたんですか?大丈夫なんですか?」

座ってくださいと言う男の子がお茶を淹れてくれる。チャイナ服の女の子が「怪しい者じゃないネ」と言った。不信感が募る。このバラバラな三人は一体どういう関係なんだろうか。

「新八です、志村新八。ここの従業員をしています」

そう挨拶してくれた男の子は本当に誠実そうで…私もついうっかり本名を言ってしまった。知らない人だから警戒しようと思ってたのに…!

「なまえさんですか!あ、お茶どうぞ」

「ありがとうございます…熱ッ」

「だっ大丈夫ですか?!神楽ちゃんタオル!タオルか何か持ってきて!」

神楽ちゃんと呼ばれた女の子がタオルを持ってきてくれた。ありがとうとお礼を言った私の顔をまじまじと観察して「銀ちゃん、こんな普通そうな女どこで引っ掛けてきたアルカ?」と言い出した。

「銀ちゃんのタイプじゃないアル。姉御の指定した条件には合うけどナ」

「だろ?さっきちょうど探してたら運命的な出会いをしてよー。それで暇か聞いたら暇だっつーからさ。これで俺らが女装する必要はなくなったってことだ」

ありがとな、なまえチャンだっけか?とこちらを見た男の人は「改めて坂田銀時です。万事屋銀ちゃんっつーなんでも屋の社長やってます。銀さんでも銀ちゃんでも好きに呼んじゃって」と自己紹介をしてくれた。女の子も「神楽アル。万事屋銀ちゃんの美人従業員と言ったらこの私アル」と自己紹介をしてくれた。はあ…としか返せない私のコミュ力が恨めしい。
それで頼みって?と聞いた私に新八くんが「僕の姉上が」と説明をしてくれた。

「…いやいや無理です無理です。お酒が強いわけじゃないし」

「それなら大丈夫だ。客にガンガン呑ませとけばいい」

「それに私、接客業とか向いてないっていうか」

「それも大丈夫だ。相手はみんな野菜か動物だと思え」

「でもだってキャバクラってもっと可愛くて華やかな人がっ」

「あーそれなら安心しろ。可愛すぎない子っていうのが依頼内容にあったからな」

「…あっそうですか」

初対面の人に可愛くないって言われたんだけど?この人、私に頼む気あるのかな?
ケッと顔を歪めた私に新八くんがフォローを入れてくれた。入れてくれたけど「姉上より可愛くない子って条件なだけでなまえさんはお綺麗だと思いますよ」って、それつまりお姉さまよりブスってことだよね?フォローするなら最後までフォローして欲しかったな、私。

「ちゃんと給料も出るし、明日仕事とかあるんなら日付跨がねえうちに返すしよ。な?頼むよ〜。女の子用意しろって言われててさぁ」

別に明日も予定なんてない。仕事探すために職安に行くくらいしか予定なんてない。給料ってどのくらいですか?と聞いた私に銀さんはうーんと首を捻る。

「色付けるように言っとくけど?」

「具体的にどのくらいですか?」

「キャバ嬢の給料なんて知らねーよ」

「じゃあ今回はなかったこ、」

「あーでも時給は二千…」

「二千円?!」

言い終わるよりも先に勢いよく食いついた私に銀さんが意地の悪そうな笑みを浮かべた。あっ、と言った私に「詳しくは知らねーけど夜の仕事は時給いいっつーのは確かだな」と笑う。

「着物も経費で落とせるし金は稼げる。今よりもいい暮らしはできるんじゃねーの?」

ここで気持ちが揺らいだ。時給がいい上に、着物が経費で買えるらしい。一人暮らしでかつかつだった私は最近服飾系の物を買った覚えがない。煌びやかな世界はそれなりに大変だなんてこと分かってるつもりだけど、これはとってもいい話ではないか?
悩む私に銀さんは「危ねえ客からは俺たちは勿論、店の用心棒もいんから守ってやれるぜ?」とドヤ顔で言う。

「やります」

「よっしゃ。交渉成立!依頼主に連絡だ」

新八ィと言った銀さんは私の頭を撫でて「よろしく頼むわえーっと…なにちゃんだっけ?」と言った。なまえちゃんだよ、覚えてね。