08
帰宅すればまだ銀ちゃんが帰ってきていなくて安心した。そのままシャワーを浴びた。跡を残したがる高杉にそれはさすがに笑えないからと諦めていただいた。
お風呂から出れば、銀ちゃんがソファーに倒れ込むように寝ている。少し離れたところからでもお酒のにおいがする。
「銀ちゃん、銀ちゃん。ベッド行こう?」
「…んー、なまえちゃんおいでー」
「わっ」
勢いよく抱きしめられる。銀ちゃん?と顔を上げればトロンとした目がこちらを見下ろしていた。
「結婚、する?」
「…え」
「だから、結婚する?」
急に、なに。え?
「今も結婚してるみてえなもんだし」
「そ、そうだけど…」
「嫌なわけ?」
「いやっ、そうじゃ…」
なんで、高杉と会った日にそんなこと言うの。なんてそれは私の勝手であって、銀ちゃんはいつからか考えていたんだと思う。
どうしたらいいんだろう。嫌か嫌じゃないかだと、嫌じゃないけど。けど…
「でも、銀ちゃん、」
教え子とのことはどうなるの?
そもそもそこまで考えてくれてるのにどうしてそういうことするの?
「んー?なに?」
「あの、ね。銀ちゃん、高校の頃から噂で…教え子に手を出してるって、そういう…」
「あぁー。高杉からでも聞いた?」
「えっ?」
「あいつ、そこまでしてなまえちゃんが欲しいんだ?へえ」
楽しそうに笑う銀ちゃんが怖い。どうしてなにかあれば高杉高杉高杉って。
「言っとくけど俺がしてんのは浮気じゃないからね?抱いてくれって頼まれるから抱いてるだけ。相手は俺に抱かれて嬉しい、俺は若い子抱けて気持ちいい。そんなもんだから」
なまえちゃんが気にすることでもねえよな
へらへらしてる銀ちゃんがなにを言ってるのか分からなかったし、高杉がこの話を聞いて昨日怒ったというのは嬉しかった。
「それって、私が年取ったらもういらないってこと?」
「は?なまえちゃんは別でしょーが」
なに言ってんの?と笑われた。
銀ちゃんにとってそれは普通のことらしい。手が震えてしまう。
「じゃあ、私が他の人と、そういうことしたら…」
「殺すよ。相手」
「…え」
ツゥっと首筋を撫でられる。そして爪を立てられた。
「いっ、」
「なになにー、誰かとシたわけ?」
「銀っちゃ、」
「誰?高杉?」
ドクンと跳ねた。銀ちゃんの笑顔が消える。
「シたわけ?」
「してないっよ」
「本当に?あとから分かったら高杉殺っちゃうけどいいわけ?」
「し、てなっ」
痛い苦しい怖い。
自分は正当化するくせに、自分はあっさり答えられるくせに。
「浮気は許さないかんね?分かってるよね?」
ねーなまえちゃんは馬鹿じゃないもんなー
わしゃわしゃと頭を撫でながら銀ちゃんはへらっと笑う。
結婚する?って言うけど、若い子とそういうことをやめるつもりはないらしい。頼まれてるだけと言って。
「あーあ、赤くなっちまってんな。痛かった?大丈夫?」
首を優しく撫でる銀ちゃん。
痛かったに決まってる。
「私が、他の人抱かないでって言ったらやめてくれるの?」
「泣いて縋り付いて俺しか見えないってなったらやめてやるよ」
どうやったらなまえちゃんは高杉を忘れるんだろうな
銀ちゃんが悲しそうな顔なんてするから、私は勢いよく背中に腕を回した。
「ごめん、なさい」
「はあ?なにがよ。もう寝ようぜ」
銀ちゃんのことを好きだ好きだと思えば思うほど、高杉に会いたくなるのはどうしてなんだろうか。
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