07





私の頭をぐっと胸板に押し付けるようにしたまま高杉が火を消した。そしてそのまま抱きかかえられる。

「高杉っ、下ろし、」
「昨日銀八と会った」
「え?あ、うん、聞いた」
「あいつ教え子とヤってんぞ」
「あっ…」

嘘だ!とか本当に?とかじゃなくて、あぁやっぱりと思った。私が泣くわけでも怒るわけでもないからか、高杉はベッドにゆっくり私を下ろし顔を覗く。

「知ってたのか」
「証拠はないけど、なんとなく。だって銀ちゃんだし」
「それでも一緒に居てえのか」
「…別に、そうじゃないけど」

高杉はそれ以上聞いてこなかったし、私もそれ以上その話をしなかった。というより、銀ちゃんを好きかどうかよく分からなくなったのだ。高杉といると、よく分からなくなる。

「その顔やめろよ」
「え?」
「期待してんじゃねえよ、シねえ」
「きた、いなんてっ」

恥ずかしくなった。だって抱きしめられてベッドに連れてこられたら"そういうこと"すると思うじゃない。

「そんな尻軽だったのか」
「ちがっ」
「知ってる」
「え?」
「俺以外の男の家には一人で行かないことも、なるべく俺たちと遊ぶ時はスカート履かねえことも知ってた」

俺がいねえ宅飲みは参加しなかったもんな
そう言って頭を撫でてくるから、言葉に詰まる。なんだそれ、それじゃあまるで…

「私、高杉のこと、好きだったの?」
「知らねえ。それか俺のこと男として見てなかったんじゃねえの」
「それはないっ、それはないよ」
「じゃあ惚れてたんだろ」

高杉はニヤリと笑って自信満々に言うから、私がただ恥ずかしいだけになった。
私の上に跨り耳元で「お前は俺に惚れてたんだよ」と言われて、言葉にできないくらい胸が痛くなる。

「知って、たの…」
「当たり前だ、どんだけ見てたと思ってんだ?」
「じゃあ、なんでっ」
「急ぐ必要もねえだろ、そんなもん」

私があの関係を心地よいものだと思っていたから、高杉は黙っていたというのか。

「つかてめえの気持ちくらいてめえで気づけよ」
「だって、そんなの、私」
「高三にもなって恋を知らねえってやばくねえ?」
「…やばいかも」

どちらからともなく重なった唇に、あの頃の気持ちが蘇る気がした。高杉はいつだって私の側にいて、私は高杉とずっと一緒にいた。誰かに取られる心配もなかったし、一緒に学校行ってクラスでも土方や沖田なんかと話して一緒に帰って、休みの日も高杉の家に遊びに行って…
だから気付かなかった。当たり前だったから。

「私、好きだった、高杉のこと」
「だろうな」

それは多分今もなんだと思う。
言われなきゃ気付かないような、そんな当たり前の存在なのだ。
首に回した腕を高杉は嫌がる素振りも見せずもう一度キスをしてくれた。嬉しくて、幸せでくすぐったい。
そういえば、銀ちゃんと何度もキスしているけどこんな気持ちになったことはない。
だから、銀ちゃんが教え子に手を出してるって思っても傷つかなかったんだ。
でも、銀ちゃんを嫌いかと聞かれたらそれは頷けない。高杉と会わなかった間、銀ちゃんとの思い出がたくさんあるのだ。

「高杉…私ね、」
「あぁ?」
「もう銀ちゃんのことが…」

好きなんだと思う
銀ちゃんと一緒にいて、楽しい。
それに抱きしめられたら嬉しい。キスも嬉しい。もう今更戻れないんだと思う。

「別に奪おうなんて思ってねえよ、勘違いすんな」
「え?」
「略奪なんて趣味じゃねえ」
「あっ…」

何を勘違いしていたんだろう。
高杉は別に好きだとか言ってないし、私たちがしてた話は過去のことだ。

「俺はお前がそれでいいっつーならそれでいいんだよ」

高杉は幸せなんだろ?と私の左薬指を舐めた。口の中で転がされる指から電撃が走るように痺れていく。
幸せだったはずなのに、高杉とこのまま一緒にいたいと思ってしまう。

「わざとなの?」
「選ばせてやってんだろ、感謝しろよ」

久しぶりに直に感じる高杉の優しさはずぷずぷと私をダメにしていく。
頭の中で銀ちゃんがチラついた。それを振り切るように高杉にキスをすれば高杉は余裕そうに笑った。

「もっと早くこうしてりゃ良かったな」

ギシッとベッドが軋む。
私はそのまま高杉に抱かれたのだった。


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