06



「よう」
「…こないだぶりだね。沖田に至っては昨日ぶり」
「悪い、なんかついてきた」
「全然大丈夫だけど、沖田って高杉とも仲良かったんだね」
「あー…言うほどでもねえが」

乗れよと言われ寝てる沖田の隣に乗ろうとしたら高杉はニヤリと口元を緩ませ「前」とだけ言った。高杉の隣なんて数えられないくらい居たはずなのに、昨日の銀ちゃんの言葉が頭を駆け巡るから変に緊張してしまう。

「なんだよ、乗らねえの?」
「乗る、けど…」

助手席に乗り込めば高杉はアクセルを開けた。どこに行くのかもわからないけど、高杉がいるならどこでもいいかだなんて…

「飯」
「はっ、へ?」
「どっか食い行くか」

運転する横顔がかっこいいだとか、声が耳をくすぐるだとか。なんだこれ、なんだかとても恥ずかしい。
なに見てんだよと言われ慌てて前を向いた。高杉を意識するなんて、まさかの出来事すぎて全然頭が追いつかない。

「俺ァ寿司食いてえなァ」
「おっ、沖田起きたの?」
「なんでィそのくそつまんねえ返し」

ふわぁと欠伸をしながら沖田が私と高杉の間にひょこっと顔を出す。

「あ、みょうじって料理出来るんですかィ?」
「まあ、簡単のなら一応」
「へえ。なら高杉ん家で宅飲みしやしょうぜ!」
「…沖田っていつも酒のことばっかじゃない?」
「当たり前でさァ。俺は酒のために日々生きてるようなもんなんでねィ」

高杉も酒好きだろィと沖田が言えば高杉も頷く。こうして卒業してから初めて高杉の家に行くことになった。
高校の頃は何度も行っていたけれど、その時は実家だったし高杉のお母さんもいたし別になんとも思わなかったのに、一人暮らしをしてると言われればドッドッドッと心臓が早くなった。もうなんだろうか、この感じは。高杉本人から何かを言われたわけじゃないのに、意識してる自分は一体どれだけ自惚れてるんだろう。

「適当に座っとけ」
「あ、手伝う」

綺麗なマンションの角部屋に住んでいるらしい。まだ学生の身なのに、こんないいところに住んでるのかとキョロキョロしてしまった。部屋は綺麗に片付けられていて、余分なものはなに一つ見当たらない。

「腹減ってんか」
「うーん、少し。高杉は?」
「酒飲む時はそんな食わねえ」

じゃあおつまみ軽くでいいかな?と高杉の了承を得て冷蔵庫を開ければ見事にビールしか入っていなかった。調味料は揃っているけれど、そんなに使用された痕跡もない。あ、あたりめは常備されてるのか。

「沖田、お腹空いてる?」
「空きっ腹で呑むと変な酔い方しやすからね、なんか食ってからが理想でィ」

なんかって…あたりめでもいいのだろうか。
悩んでいれば高杉が財布と車のキーを持ち、なんかいるなら買ってくると言う。

「そんじゃみょうじも行ってきなせえよ。あぁ鯛の刺身とか買ってきてくだせえ」
「鯛限定すんな」
「じゃあ鮪」
「みょうじは?どうする?」

じゃあ私も行くよ
高杉に続いて玄関に迎えば沖田がにんまりと笑った。ん?と首を傾げればなんでもありやせんぜと手を振る。
スーパーで適当に食べ物を買って戻れば沖田はいなかった。不用心にもほどがある。オートロック式だとは言え、勝手に帰るなんて。

「こんなに買ったのにね」
「…残ったら土方と沖田がどうせ消費すんから大丈夫だろ」

ビールを渡され、宅飲みしたいって言った沖田不在のまま二人で飲むことにした。なんとなく、沖田がどういうつもりでこうしたのかが分かってしまいなんだか気まずかった。

「お前、銀八のこと好きだったのか?」

お酒もいい感じに回ってきた頃、高杉が言う。
なんとなくその話題は触れてほしくなかった。

「好きじゃなきゃ一緒にいないよ」
「…そうか」
「うん」

あぁねえ、チョリソー焼いていい?
会話が続かないような気がして、立ち上がった。高杉も一緒にキッチンへと来てくれて、一緒に焼くと言う。焼く私とお皿の用意をしてくれる高杉。そういえば高校の時もこうして一緒に何か作った気がする。高杉のお母さんがお嫁に来ればいいじゃないとか笑ってて、高杉が馬鹿じゃねえのとか言って、あの時私は…「高杉なまえも悪くないよね」なんて笑ってた。
あぁ、私、銀ちゃんとこうやって一緒にキッチンに立ったことない。

「いいね、こういうの」
「なにがだよ」
「ほら、高杉とキッチンに立つの懐かしいなって。意外と家庭的だよね、晋ちゃん」
「晋ちゃん言うな」
「お母さんはそう呼んでたじゃない」
「うっせーよ」
「照れてんの?」
「…焦げてんぞ」
「あっ!箸、菜箸取って」

ありがとうと受け取ろうとした時、手を掴まれる。

「あの時、言えばよかったのか」
「え?」
「高杉なまえも悪くねえよって」
「なっ、なに言って、」
「悪くねえよ、高杉なまえ」
「高杉…」
「ダチのままっつーのもいいかと思ってた、でも銀八はやめとけ泣くぞお前」

それがどういい意味かなんてもう分かる年になった。引き寄せられるようにゆっくり私は高杉の胸板に顔を埋めた。
多分、一緒にいすぎて考えてなかったけど、私は高杉が好きだったんだと思う。


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