05




がちゃと鍵の回る音がした。いつもなら明るくただいまぁーと語尾を伸ばしながら帰ってくるのに、今日は無言だったから私は玄関まで向かった。

「おかえり…何かあった?」
「…なまえちゃん、酒飲んだ?」

なまえちゃんといつも通り呼んではくれてるものの、その顔は気に食わないと言いたそうだった。
ごめん、沖田と土方が来て…と言えばふうんと私の横を通り過ぎそのままリビングへと行ってしまった。機嫌がすこぶる悪いらしい。こんなに感情を露わにする銀ちゃんは初めて見るかも知れない。

「ご飯食べる、よね?」
「は?なまえちゃん先に食べたとか?」
「えっ、違う、食べてないよ」

機嫌が悪いからか、やけにつっかかってくる。正直土方たちとつまみをちょこちょこつまんでいたからそんなにお腹は空いていないけど、今の銀ちゃんにそんなことは言えなそうだ。
あとは炒めるだけにしておいた野菜炒めを用意していれば、ビールを取りに来た様子の銀ちゃんが私の携帯を持っていた。

「な、にしてるの?」
「んー?高杉と連絡取ってんのかなって」
「高杉?」
「あー、取ってなかったわ。悪い悪い、ちょっと気になっちまってよ」

おーいい匂いしてきたなーと銀ちゃんは先ほどとは別人のように言う。ドクンドクンと心臓の音が耳まで届いた。
銀ちゃんはやけに高杉のことを気にしているけれど、私と高杉は何かあったわけでもなければこれからもきっと何もない。
今更沖田にとやかく言われても、もうあの頃のように毎日一緒には居られないのだから。

「今日、高杉と会って来たんだけどよー。あいつまだなまえちゃん好きだったわ」

ご飯を運んでいれば銀ちゃんがテレビを観ながら本当に突然、そんな事を言い出した。落としそうになったお皿を持ち直す。

「適当な付き合い方はすんじゃねえよだって。あんなに友達思いなやつだったっけ?」

さあどうだろうねと返しておく。
高杉は意外と友達思いだし、思いやり精神とか本当は凄いんだから。あんな不良みたいな格好してたのに、妊婦さんやおじいさんおばあさんに席を譲ったり雨の日に捨て猫のためにわざわざ遅刻してまで傘を届けに行っちゃうような人なんだから。

「まあでもなまえちゃんはやらねえよって言っといたわ」

おぉ美味そう、一緒に食おうぜ
そう言ってテーブルに向かう銀ちゃんに、高杉と明日会うのは伏せておこうと思った。沖田が気を回したのだ。
"銀八はいい噂聞かねえ"と言って。
沖田は私と高杉をくっつけたいらしい。

「明日飲み会なんだけど、なまえちゃん一人で飯食える?それとも一緒に来る?」
「一人で食べれるよ、大丈夫」
「そ?なるべく早く帰ってくるからさ。留守番頼むわ」
「了解、楽しんできてね」

よかった、銀ちゃんが飲み会なら高杉と会う時間が取れる。
ただ友達と会うだけなのに、銀ちゃんが必要以上に高杉を敵視するから、なんだかいけないことをしている気がした。
自分は携帯にパスをつけるくせに、私がつけたら怒るのはどうしてなのだろうか。

"みょうじ、銀八はやめときなせえ。俺見たんでさァ。去年実習で銀八と会ったとき、生徒とキスしてやしたぜ?それも深い方"
"高杉と実習一緒じゃなかったか?"
"一緒でしたぜ。高杉があいつのああいうところが嫌いだとかなんとか言ってやしたねィ。だから多分、アンタが付き合ってるって知って心配してんじゃねえかなァ"

高校の頃もそうだった。
心配してるだとかそんな言葉は言わないくせに、いつだって誰かに何かがあれば側にいて励ますわけでもなくただ話を聞いてくれる。
高杉はそういうやつなのだ。
根っこは本当に優しいのだと思う。


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