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「ふぅん。そんなん予想の範囲だろ」


土方から聞いたであろう高杉は別に全く焦っていなかった。沖田も高杉同様、ケロっとした顔でお酒を飲んでいる。土方と私だけが焦っていた。


「予想の範囲って…高杉の家探すつってんだぞ?」
「もう見つかってんかもな、あいつ結構しつけえし」
「みょうじだけじゃねえぞ、お前まで怨まれてんだぞっ」
「なまえのことは怨んでねえだろ」


うるせえなと高杉が言えば沖田も「もう名前で呼んでるんですかィ、熱々ですねィー」なんて茶化す。それに土方が「熱々ですねーじゃねえよ!今はそんなことよりっ」と更に声を荒げた。


「ほっとけ。その携帯が嫌だっつーなら新しいの買えばいい」
「そうじゃねえって。なんで高杉も総悟もそんなに冷静なんだよ」
「むしろなにがそんなに怖えんだよ、土方」


怖いんですかィ?土方さぁん
沖田までそんなことを言えば土方はため息を吐きながら「お前らはこの履歴に恐怖を覚えねえのか」と言った。そして私の方を見て大丈夫か?と心配までしてくれた。


「おい土方。手出すんじゃねえよ」
「どう見ても出してねえだろーが。みょうじだってこんなの怖えに決まってんだろ」


着信もメールも異常な数だぞ
土方の言葉に私はまた先ほどの履歴の多さに身震いがした。メールの内容は見ていないけど、なんとなく想像がつく。きっと怒ってる。そして例の如く、高杉高杉と書いてあるんだろう。
ぎゅっと手を握れば高杉が「こいよ」と呼んだ。


「お前は今さらなにをびびってんだ?」


軽々しく自分の膝の上に私を乗せる。少しアルコールのにおいがした。沖田と高杉は既に飲みだしているらしい。


「びびってる、のかな。でも高杉に迷惑をかけるのはっ」
「迷惑じゃねえよ。腹くくったんだろ?円満解決なんざ、するわけがねえ」


こっちは人の女に手出した時点で腹くくってんだよ
飲めよと勧められたお酒を飲む気になれず断れば、ぐいっと高杉は口に含み私に移した。んんっと声が漏れ、口の端から少しお酒が垂れてしまう。


「お前はしたいようにしてりゃいい。銀八がいいなら引き留めねえよ」


高杉はいつだって私の意志を尊重してくれる。いつだって私に選ばせてくれる。
小さく高杉がいいと言えば目を細め「なら笑ってろ」と言った。


「なんでもいいんですけどねェ、俺たちいんの忘れてやせん?」
「おまっ、みょうじが女らしいとこ初めて見たわ、ごっそーさん」


沖田と土方に言われて我に返った。急に恥ずかしくなって高杉の上から退こうとすれば、腰に回されている腕に力を入れられる。


「見せとけよ。やっと手に入れたんだ、自慢させろ」
「…だからどうしてそういうことをサラッと!!」
「言わなきゃ分からねえようなやつだからだろ」


"あの時高杉なまえも悪くねえって言えば良かったのか"
こないだ聞いた言葉が脳裏に浮かんで、意味がわかった。あの頃から高杉は私を大事にしてくれていたということだろうか。


「でもさすがに飲み辛えわ。一人で座れ」
「どっちなの!?」
「なんだ。そんなに俺の上にいてえのか」
「そんなんじゃっ」


楽しそうに喉を鳴らす高杉と、暑苦しいリア充うぜえという沖田。それからもうテンパった俺がアホらしくね?と呆れたようにこちらを見る土方。
もうっ、と椅子に腰をかければ高杉がこちらを見て口を開いた。


「安心しろ、俺も沖田も土方も殴られるのなんざ慣れてらァ」


それが銀ちゃんにということはわかった。なんて言い返せばいいかわからない。だって、私のせいで…


「ま、俺ァ土方さん盾にしやすけど」
「ふざけんな。高杉が一人で殴られてりゃいいだろ」
「あり?さっきあんなに焦ってたのに殴られるのが怖くなっちまって友達放っておくんですかィ?さすがは土方さん、へたれは言うことが違いやすね」
「はぁ?冗談に決まってんだろーが。でも総悟、お前だけは俺よりも殴られろ」
「いやでィ」
「いいや、殴られるね、お前は殴られるね。俺が盾にしてやるからな」
「言ってなせえよ。どう考えても俺の方が俊敏なんでねィ」


いつの間にか沖田と土方が言い合っていて、高杉はいつも通りお酒を飲んでいた。さっきまで不安で仕方なかったのに、いつも通りの三人に心が軽くなる。


「まあ、心配すんな。お前のために殴られるわけじゃねえから。高杉のために付き合ってやるだけだから」


いい友達持ったな高杉、と言った土方に高杉は目を逸らしたまま「騒がしいだけだ」と言っていたけどたぶんそれは照れ隠しだと思う。


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