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「おい、起きろ。今日は学校あんだよ」
「…ん、今起きっ、なにしてんの?」


身体を揺さぶられ目を覚ませば上裸の高杉が私の上にいた。重いし、上裸だし、恥ずかしいし…高杉の裸を見たことはあるけど、こんな明るくて至る所が見えてしまうとどこに目を向ければいいかわからなくなってしまう。


「なに照れてんだよ。今更だろ」
「いっ、まだ朝!朝だから!」
「今日大学」
「あっ、わかった、その間どっかで時間潰しとくよ」
「そうじゃねえよ。別にここに居てもいいし出掛けんなら出掛けててもいい。そうじゃねえだろ?」


分かれよと私の首筋に軽く歯を立てた高杉は、そのまま軽く吸い上げた。分かれよって、まさかこの時間から…


「んっ、待って、たかすっ、」
「晋助」
「え?」
「そこから始めんだろーが」


首筋に跡を残しながら舌は胸へと降りていく。くすぐったくて恥ずかしくて目を強く閉じていれば、その感触が離れた。薄っすらと瞼を開けた先でにやりと高杉は笑っている。


「なっ、に…」
「いや?」


とにかく鍵だけは閉めとけよと私の上から退いた高杉はそのまま服を着て大学へと向かってしまった。身体が火照る。その先を期待していたからか、少し物足りない。


「馬鹿杉めっ」


小さくボヤいて洗面所へと向かえば、鏡越しに映る首元の赤い跡。それは花でも咲いてるかのように、たくさんついていた。この状態で出掛けられるわけないでしょうっ。
溜息をついたものの、鏡に写る私は嬉しそうに締まりのない顔をしていた。

夕方頃、ガチャガチャと鍵が回り高杉が帰ってきた。おかえりと玄関に向かえばコンビニ袋をぶら下げた高杉と沖田と土方がいた。


「よう。やっとくっついたって聞いたんでねィ。祝ってやろうと思ったんでさァ」
「また四人で集まれるな」
「沖田…土方…」
「チラッと話したらついてきやがった」


むすっと高杉は言ってるけど、友達大好きなのはもう知っている。


「素直じゃないね、晋ちゃん」
「晋ちゃんはやめろ」
「え?なに晋ちゃん」
「まじでうぜえ」


うぜえと言いながらも腹減ってねえ?と気にしてくれる辺り、やっぱり高杉は優しい。そんな一言に胸がきゅうっと締め付けられるのだから私も単純な奴だと思う。


「イチャイチャしてねえで早く来なせえよ、こないだの酒どこでさァ」


リビングからゴソゴソと何かを動かす音と、沖田の声。それにふふっと笑えば高杉が私の頭を軽く叩いた。


「お前は笑ってる方がいい」
「……そういうことサラッと言わないでよ、恥ずかしい」


おーい高杉と沖田が呼ぶ。高杉はうっせえなと漏らしながらリビングへと向かった。笑ってる方がいいって、なにそれ。なにそれ。なにそれ。
高杉ってそんなこと言うの?
私もリビングへと向かった。キッチンで酒を準備する高杉と沖田を横目にタバコを吸っている土方の隣に腰を下ろした。


「…お前らが付き合うとか、なんかちょっと想像つかねえけど。幸せそうでよかったわ」
「なに急に」
「首。すげえことになってんぞ」


ククッと笑う土方に首元につけられた跡を思い出した。そういえばっ。


「ちがっ、これは!!」
「別にいいんじゃねえの?銀八とは別れたんだし」


俺も総悟も高杉の方が安心だわと笑う土方に指先が冷える。銀ちゃんと、別れたことになるのだろうか。
慌てて昨日から見ていない携帯を取りに寝室へと向かった。枕元で電源が落ちたまま、置いてある。


「高杉っ、充電器貸して!」
「充電器?その辺にあんだろ。土方、ベッドの脇」
「なんで俺なんだよ。知らねえよお前ん家の充電器なんか」


ほら、これじゃねえの?
土方に渡された充電器を奪うように受け取った。ありがとうも忘れてた。そんな私に土方は「おい、みょうじ?」と言った。それにさえ返事する余裕がなかった。銀ちゃんは別れたと思っているかな?そのまま逃げるようにやってきた私を許さないかも知れない。浮気したら殺すよと言っていた銀ちゃんが脳裏に浮かんだ。


電源が入った携帯に浮かんだのは着信162件、未読メッセージ204件の文字だった。
驚き携帯を落とした私に、土方が「大丈夫か?顔色悪いぞ」と言いながら拾ってくれた。そしてそれを見て驚いた顔をしている。


「別れたんだよな?だから高杉ん家にいんだよな?」
「…別れるって、言ってない」
「高杉は、知ってんのか」
「高杉に嘘はなにもついてないし、もう戻るつもりもないよ…」
「ならいい。お前は気にすんな。とりあえず高杉には言うぞ」


頷けば土方は携帯を持ったままキッチンへと向かった。どうして私は、いつも高杉に迷惑をかけてしまうんだろう。


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