09
銀ちゃんはいつも通りスーツを着て学校へ向かった。行ってらっしゃいと見送ってからため息が出た。鏡を見れば首にくっきりと赤い爪跡が残っている。
銀ちゃんとの結婚生活を想像してみたけれど、全然浮かばなかった。もう三年くらい一緒に暮らしてるはずなのに、結婚するというのが全然しっくりと来ないのだ。それよりも昨日の高杉との方が全然想像できてしまう。そんなことを考えていれば、思いの外時間が経っていたらしく銀ちゃんが帰ってきた。
「ただいまー…って、どうしたぁ?具合でも悪いか?」
ご飯の支度が終わっていないからか、銀ちゃんが私の額に手を当てた。今日は早かったね銀ちゃん。
「ううん、ごめんね、お昼寝してたらこんな時間になっちゃって。今すぐ支度するから」
「んなに気にしなくていいぞ?風呂入ってくるし。つか外食でもいいし」
頑張りすぎんなよと頭を撫でる銀ちゃんは昨日のことを覚えていないのだろうか。銀ちゃんがお風呂に入ってる間に二度ほど携帯が鳴っていた。そこには知らない女の子の名前。
さっぱりしたわと出てきた銀ちゃんに、電話のことを伝える。
「あー、"相談"受けてんだよ、こいつ今進路悩んでてさ」
「そっ、か。もうそんな時期かぁ」
「そうそう。ちょっとかけ直すわ」
ビールちょうだいと言いながらかけ直す銀ちゃんは堂々としていた。そして会話を始める。
「今から?あー…別にいいけどどこ?」「あーはいはいあそこね。じゃあ一時間後に迎え行くから」
ビールを空けたものの口をつけないのは車で行くからだろう。担任って放課後も会うんだ?もうよく覚えていないけど、そんなに銀ちゃんって生徒思いだったっけ?
「なまえちゃん悪いー、なんか話あるらしくて出るけど一人で飯食える?」
「うん、大丈夫だけど…その、」
「ん?」
なーに?と後ろから抱きしめる銀ちゃんは何を考えているんだろう。
その子にも頼まれたら抱いてあげるの?
「その子とするの?」
「なに、嫌なの?」
嫌なの?そんなの、当たり前だと思うんだけど…
「じゃあ抱く気なくなるくらい、なまえちゃんがヤらせてくれんの?」
「…してるよ、こないだだって」
「そうじゃなくってさぁ…こういうこと」
「えっ、待って、なっんんん」
そのまま口を塞がれ、ズボンをずり落とされた。そしてパンツの横から濡れてもない私のそこに自身を当てがう。それがどういう意味か、これからどうなるのかわかって銀ちゃんを押し返そうとしても全然ビクともしなかった。
「キスじゃ濡れねえの?」
「そんな簡単に濡れっ、痛ッ、待って銀ちゃん、本当に無理、痛い痛いよっ」
「きっつー…力抜けって」
そのままグッと奥へ腰を進める銀ちゃん。全くといっていいほど濡れてないそこは、ただ擦れて痛い。逃げようと腰を引けばグッと抑え込まれ、そのまま奥まで強引にねじ込んだ。
「いっ…待って本当に、動かないでっ痛いの、痛いから」
「それがいいんだって。大丈夫大丈夫、すぐいつもみたく声出てくるって」
いい子にしててねーと私の腰を押さえながら銀ちゃんは腰を振る。滑りが悪くて痛いだけなのに、銀ちゃんの顔は興奮しきっていた。声なんて出ない。気持ちよくない。こんなの愛されてる気がしない。
痛い痛いと言ってるのに、銀ちゃんは嬉しそうな顔をしている。
「でも血とか出ないでしょ、なまえちゃんには優しくしてんだから」
誰と比べての発言なのとか、これのどこが優しいのとかそんなこと口に出来ないくらい歯を食いしばる。そんな私に満足気な顔をしていたはずの銀ちゃんは急にいいところを一突きした。
「んあっ」
「ほらね、声出たじゃん」
強引に濡らすかのようにそこだけを集中的に攻められれば、心は嫌だと思っても身体は慣らされて濡れてきたのが分かった。
「滑りよくなってきたわ、これならイけそッ」
ハァと息を漏らしながら腰を打ち付けるスピードを上げる。嫌なのに自分から出る甘い快楽に悦ぶ声が憎い。
「出すけど、顔にかけていい?」
「あっ、やっん、やだっ」
「じゃなきゃ満足できねえんだって」
な?と言いながらいつものように早く腰を振る。ウッと絞り出すような声がしたかと思えば一気に引き抜き、私の髪を引っ張った。
「いっ、」
引っ張られたからか頭も痛くて、突きまくられた下腹部も痛い。そんな私を見下ろしながら銀ちゃんは本当に顔に欲を吐き出した。
独特のニオイもべったりつくそれも嫌だった。
「はい、舐めて」
「…嫌だよ」
「は?なまえちゃん、嫌なんでしょ?俺が他の子とするの。じゃあちゃんとやってくんねえーとさー、こっちも譲歩するって言ってるんだから」
見上げた銀ちゃんの顔は、興奮してるなんてもんじゃなかった。今までもエッチする時は興奮してる顔をしていたけれど、こんなに目を血走らせてるのは初めてだ。
動かない私にイラつきを見せるように、銀ちゃん自身のそれを私の頬に当てる。
「早くしろって」
舐めなきゃ終わらないらしい。
ゆっくり手を添え口を開けば頭を抑え、グッと喉まで押し込んだ。
「ッ、おえっ」
「ハァ、いいじゃん、その顔。また元気になっちゃった」
ガンガン喉を突かれれば、苦しくて嗚咽が出てしまう。そしてそれに伴い涙も出た。もう嫌だ、こんなの、嫌だ。
「そのままッ、口で抜いて」
私の頭を撫でながら銀ちゃんは気持ちよさそうになまえちゃん可愛いと言った。
もう本当によく分からなくなった。私はこの人のことを好きなのか、この人は私が好きなのか。
苦しいまま銀ちゃんが達するまで咥えていれば、苦いそれが喉の奥で吐き出された。涙目になって、よだれを垂らす私を銀ちゃんは嬉しそうに見下ろす。
「やっべえ。他の子なんて比べもんになんねえくらい、なまえちゃんだと気持ちいいわ」
もう他の子とできねえかも
出掛ける前にもう一回シャワー浴びるという銀ちゃんを見送りながら、高杉に会いたいと思った。選ばせてくれるっていうなら、私は高杉がいい。でもそれは、銀ちゃんがこういうことをしたからになってしまうのだろうか。
違うよ、高杉に会って高杉を知っちゃったからだよ。
昨日の高杉との行為は、今までにないくらい幸せだったのに。
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