カチャカチャと回るライターの音で目を覚ました。ベッドの縁に腰をかけた高杉が視界に入って無意識に溜息を吐いてしまう。


「起きたてで嫌そうな面すんじゃねえよ」
「してないよ。つかまだいたんだ?」
「そんな早く帰って欲しいか?」
「やる事やったのにどうしているのかなって。珍しいじゃん」


起き上がって落ちている下着を拾い上げる。ブラジャーを着けていれば煙草を咥えた高杉がフックを留めてくれた。ひんやりとした手が背中に当たって少しくすぐたい。


「いいことでもあったか?」
「なんで?」
「いつもより濡れてたから」


人ん家の冷蔵庫を勝手に開けてお茶のペットボトルを取り出した高杉は、コップに注ぐことなくそのままゴクゴクと喉を鳴らした。そして私の方にお茶を向けた。


「ありがとう」


受け取って私も喉を潤す。外はまだ薄暗く、換気のために窓が少し開けられていて下着姿では少し寒い。慌ててベッドへと戻った私を高杉が「今更照れることでもねえだろ」と見当違いなことを言っていた。
恥なんてあるわけがない。そんなのもうとっくの昔に捨てている。


「例の男は彼女と別れたのかよ」
「んーや。来週旅行に行くって言ってた」
「へえ。気楽なもんだな」


ギシッと軋んだスプリング。高杉は上裸で私も下着しか纏っていない。触れ合う肌が暖かい。


「慰めてやろうか?」
「……どうやって?」


狭いベッドの上に成人した男女が二人は結構キツイ。寝返りを打とうとすれば高杉に密着するようになってしまった。見上げた顔にはゲスという言葉がぴったりと当てはまりそうな笑顔がくっついている。目を閉じればもう一度ベッドが軋んだ。そして閉じている唇の間にぬるりと暖かいものがねじ込まれる。力を抜いて舌を絡ませながら、頭上で束ねられた手を引き抜く。手探りで見つけた高杉の手を強く握りしめた。


「萎えることすんじゃねえよ」


握りしめ返された手は温かくて、惨めだ。高杉は触れられる距離にいるはずなのに、触れられない。こんなに誰よりも深く繋がっていても、遠く感じる気がおかしくなりそうだ。
高杉は何もわかってない。全て分かったつもりなのだろうけど、本当のところ何一つ分かっていない。
揺さぶられながら手を伸ばせば、頬に触れることが出来る。キスをせがんだ私に軽くキスを落としてその口はそのまま首筋へと移動していった。私の何もかもを捧げたいと思う人は私の理想とかけ離れている。坂田みたいな人を好きになって、好きになってもらえたらどんなに幸せな人生なのだろうか。報われない気持ちは簡単に嫉みに変わってしまう。
私の上で顔を歪めるこの人は、私のために情けなくなってくれるのだろうか。


「…………よ、馬鹿」
「あぁ?聞こえねえよ」


聞こえないんじゃない、聞こうとしてくれてないだけだ。好きな人がいると嘘をつかなきゃ成り立たない関係でしかない。