正座で座る私と坂田、それから偉そうにベッドで足を投げ出して横たわる高杉。坂田は気まずそうだし、私は色々といっぱいいっぱいだし、高杉は……いつも通り涼しい顔をしている。


「いや、お前らがな、まさかその、そういう関係だとは思わなかったっつーか、なんつーの?」


少し早口で坂田が口を開いた。うん、私も驚いてるよ、坂田と高杉が友達だったなんて。タイプが違いすぎるくせに。


「いやでもあれだな。苗字はいい奴だって知ってんし、高杉もこんなナリしてるわりに純だし、うん、おめでとう、でいいんだよな?な、晋ちゃん」
「晋ちゃん言うな」
「だって、俺、余計なこと言った気しかしねえんだけど」
「別に。そのおかげっつーわけじゃねえけど、余計ではねえんじゃね?」


そう言って面倒くせえと私のイヤホンを勝手に使い会話を遮断した高杉に坂田があからさまに嫌な顔をする。困って「ごめんね?」と言えば「お前は悪くねえだろ」と頭を撫でられた。
それからまた沈黙になってしまう。坂田と沈黙になって気まずいと思う日が来るなんて思わなかった。


「あーでも、なんか二人見てたら納得してきたわ」
「え?」


坂田が立ち上がる。帰るの?と聞いた私に「付き合った日くらい二人でゆっくりしてろ」と言われてしまった。折角来てくれたのに申し訳ない。そこまで送ると私もスマホだけ待って靴を履く。高杉に一応、そこまで送ってくるねと言ってみたが返答はなかった。
カタンカタンと外階段を下りながら、揺れる坂田の髪を見ていれば「昨日さ、」と坂田が話し出す。


「高杉に言っちまったんだよね。苗字が帰ってすぐ」
「ん?」
「アイツ、好きな奴とセフレになってんかも知んねえって。それで高杉もなんか女関係で悩んでるっぽかったし、二人うまくいけばいいなって会わせようとしたんだって」


ごめんな勝手に話しちまって、と謝る坂田。ああだからか。だから俺のこと好きなのかって。そうか、坂田のおかげが。


「ううん、ありがとう。色々あったというか、私に問題があったというか……でも、凄く助かったありがとう」


胸のつっかえがスルスル落ちていく。落ち着いたのもあるけど、なんだかすごく今までのことが馬鹿馬鹿しくて、でも苦くて。これは必要なことだったんだろうなと思えてしまう。


「お前ら絶対言葉が足りな過ぎるから、ちゃんと会話しろ会話」
「うん、そうする」


もうここでいいと言い「またな」と手を振る坂田。私も手を振る。


「ねえ、坂田っ」
「あー?」
「彼女、今度はちゃんと挨拶するからまた会わせて欲しい!」


妬んでた。嫌いだと思ってた。でも、それは私が歪んでたからだ。真っ直ぐ立てなかったからだ。そう気づけば自分がどれだけちっぽけなのかわかる。恥ずかしい。


「おう、次は仲良く来いよ」


またなと手を振る坂田にブンブンと手を振った。この2年、坂田のおかげで少しづつ、私の人生は明るくなった。 そして高杉のおかげで人間らしくなった気がする。
先ほど下りてきた階段を上がっていく。部屋に戻ったら高杉と今まで全然しなかった会話をしよう。お互い知らないことが多すぎる。
足取りは軽かった。心も軽かった。
ひゅうっと吹いた風が少し冷たい。ああそうか、高杉と出会ってもうすぐ4年になるのか。
あの日屋上に行ったこと、私はきっとずっと思い出しては顔を緩めるのだろうと思った。

end