02






丹波殿が長親殿を連れ戻しに来たのは北条の使者が来たからだそうだ。

畦道を走り、本丸に着くと愛馬である白雲を下りた。

「ーーーー!」

不意に後ろから奇襲があり、丹波殿が避けた。結果、木刀の一太刀を長親殿は顔面に一撃くらった。そのまま一太刀いれた青年は二撃目を丹波殿に打ち込もうとするが、それを避ける丹波殿。
何時終わるんだろうかと思っていたら、なんと丹波殿が避けたおかげで勢いづいた青年の切っ先が此方に向かって来ているではないか。

「あっ、危ない!」

青年が止めようとした時には既に遅く、振りの勢いが抑えられずそのまま突っ込んできた。それを反射的に白刃どりして、勢いを殺すために床へ叩き落とした。が、やはり斬撃の重さが腕にかかりじんじんと痛む。

「三夜!?」

三夜の鮮やかな白刃どりに目を奪われていた人々が我に戻り、まるで止まった時間が解放されたように皆一斉に動き出す。

「おまえは女子だというのに…」

長親殿が珍しく丹波殿らにてきぱきと指示を飛ばし、冷たい水と手拭いを持ってきた。

「すまぬ…!女子に刃を向けるなんて、私は……」

「少し痛みますが大丈夫ですよ。」

更に言葉を続けようとした青年を制し、そう言った。

「ところで、貴方のお名前は?」

この青年は一体、何者なのだろうか。

「申し遅れました、私は酒巻靱負(さかまき ゆきえ)と申します。」

彼は一礼し、そう名乗った。

「私は長親殿の友人の三夜と申します。」

周りからあの長親に女友達が!とざわめきが聞こえてきた。

その後、客間に通された三夜は出された茶をすすりながら庭を眺めていた。
家臣団は今、北条の使者と会談をしているそうだ。
おかげで私は別の客間に待機させられている。
北条家は現在、太閤殿の軍と戦っている。
いくら小田原城が守備に関して群を抜いているとしても、籠城したとして太閤殿に勝てる目算はないだろう。
太閤殿は北条以外の戦国大名を配下に下しているのだから。
もちろん、支城の一つであるこの忍城も例外ではないのだ。
だが、太閤殿が勝てばこの乱世に終止符が打たれることになる。
そう考えていると、私の居る縁側にドタバタと足音が近づいてきた。
現れたのは小袖を来た美女だった。

「そなたが長親の友か?」

「えぇ。」

長親に女が居たとはな…などと物騒な独り言が聞こえてきた。
もしかしなくとも、彼女も勘違いしているクチなのだろうか。

「貴方が甲斐殿ですか?」

このような小袖を着ているということは、この忍城の城主成田氏長の娘ぐらいしか当てはまる人間はいないだろう。

「あぁ。何故それを?」

会ったことはないはずだ、と首を傾げながら言った。

「長親殿が以前話していらっしゃいました。」

「本当か!?」

彼女の食い付き方は、ひょっとしなくてもそうなのだろうか。
彼女は長親殿のことが好きだからこその行動なのか…

それから北条との会談がおわるまで三夜は甲斐姫と談笑していた。
同年代の人間とこんなに親しく話すのは初めてかもしれない、と彼女は語った。
実際は三夜の方が明らかに年上である。
その容姿ゆえだろうか。


prev back next

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -