02
お隣さん-02
引っ越しから一週間経った今日、公務で都内のホテルで主催されているパーティーに参加していた。
が、なんとも面倒なことに巻き込まれたものだ…と我ながら思う。パーティー会場で殺人事件が起きたのだ。
「被害者は、烏丸 凪(からすま なぎ)さん、23歳男性。死因はワインに含まれていたヒ素による中毒死。」
刑事がスラスラと情報を述べる。被害者である彼と同じテーブルに居た、私を含む三人と給仕係が被疑者である。
「で、被害者と幼馴染みだったのが七々扇 小春(ななおうぎ こはる)さんと遊馬 時人(ゆうま ときと)さんですね?で、貴方は…?」
刑事さんが此方へと話題を振ったので、顔を上げそちらを見た。すると、何処からか…あっ!という声がした。この場に知り合いなど居ただろうか?久脩さんの名代として参加しているが、今までこういったパーティーへ私が参加したことはない。
「…安倍三夜さん、ですよね?」
刑事さんの後ろから私の名前を呼んだのは、つい先日顔合わせたお隣さんだったのだ。
「安室さん、先日ぶりですね。このような形で再び会うことになるとは思いませんでしたが。」
誰がお隣さんとの二回目の邂逅を殺人現場ですると思うだろうか。すると、安室さんの後ろで赤い蝶ネクタイに青いジャケットを着た少年が安室お兄さんの知り合いなの?などと聞いている。
「あぁ、彼女はお隣さんだよ。」
その言葉に少年は納得したような素振りを見せた後、こちらへと来た。何故、小学生ほどの年齢に見える少年が事件現場に居るのか甚だ疑問であるが。少年に、ねぇ…お姉さん、と声をかけられたので少年へと目線を合わせるべくしゃがんだ。着物のため、この体勢はそう長く出来ないのだが仕方ないだろう。
「お姉さんの職業はなぁに?」
何か意味を含まれたその言葉を疑問に思いつつ、その問いに答えた。
「…公務員よ。」
へぇー、という少年は「だから、お姉さんは殺人事件を見ても無表情なの?」と言葉を漏らした。その言葉に周りがざわつく。
帽子にトレンチコートを着た恰幅の良い刑事さんが「どういうことだね?コナンくん」と言った。この少年はコナンくん、というのか、と何処か他人事に思いながら話を聞いていた。
「僕たちもパーティーに参加してたんだ。着物のお姉さんは珍しいからついつい見ちゃってたんだけど、お姉さんは被害者のお兄さんが死んだ時も含めてずっと無表情だったんだよ!だから、公務員って死体を見る機会がある警察とかなのかな?って。でも、それなら所属を名乗っても良いはずだよね〜。それに、ただの公務員がこのパーティーに参加するはずがないかなって。」
小学生が、このような流暢に推理をするだろうか。少年の隣にいる安室さんのような年齢の人間ならいざ知らず。死体を見て動揺をしないのか、と言われればそれは場慣れしてしまったとしか言えない。戦国時代では暗殺や戦、といった血生臭いことは割と高頻度で起こりうる事柄であったのだから。だとしても、それを此処では言えない。
「確かに、このパーティーはお金持ちや有名人といった方々が多く招待されてますから、一般の公務員が参加出来るとは、あまり思えませんね。」
安室さんがそう、追い打ちをかけてきた。なんだ、私は疑われているのか?あまりの言われように眉を顰め、反論するべく口を開いた。
「少年、申し訳ありませんが、私が無表情なのは普段からです。表情が顔に出ないとよく言われますから。私が、今回パーティーに参加したのは当主の名代としてですよ?」
「ふ〜ん。そうなんだ!それにしては、こういう会場慣れしてるな、って思ったんだけど…お姉さんは何の公務員なの?それとも言えないの?」
しつこい、その一言に尽きる。小学生のような甘い顔をしときながら、外堀の埋め方は玄人さながらである。土御門という姓は世の中でも、有名すぎるため一族の人間は宮内庁以外では安倍の姓を名乗る。それは、土御門が未だに陰陽道を扱う特殊な家系であるためだ。警察も含め、ある一定以上の階級になるとその事情を知っているため”安倍”という姓でピンと来るかもしれないが、現場に出張る刑事はまず知らないだろう。下手に警察に素性をバラせば今以上に面倒になることは必須なため、黙っていたがこれ以上この少年に追求されるのも面倒であるので諦めようとした、その時。
私のスマートフォンが鳴った。
電話をかけてきたのは紫樹だった。
普段、電話をかけてこない彼から着信があるというのはなんだか胸騒ぎがする。
「すいません、出ても大丈夫ですか?」
「構いませんが、手短にお願いしますよ。」
恰幅の良い刑事さんがそう言った。
私へ電話が来たことによってコナンくん、と呼ばれた少年は他の被疑者へ対しても同様に色々な質問をすることにしたようだ。
何回目かのコールへ出る。
「紫樹?」
『三夜!ようやく出たな!遅いんだよ!』
「申し訳ありません、事件に巻き込まれてしまいまして。」
チラリ、と刑事達の方を見ると先ほど根掘り葉掘り聞いてきた少年と安室さんが容疑者と刑事ら相手に何やら話している。
『あぁ?事件?そんなことより、緊急事態だ!和仁が行方不明だ!』
「………は、」
『とりあえず迎えに行くから、お前はそこに居ろ。』
ブツリ、と通話は切れてしまった。
言葉を上手く呑みくだせなくて目眩がした。和仁様が行方不明……?
「三夜さん?大丈夫ですか!?」
私の変化に気付いたのか安室さんがわざわざ駆け寄って来てくれた。
「…安室さん、大丈夫、です。少し気分が優れなかっただけですので。ところで、犯人は分かりましたか?」
「えぇ、犯人は遊馬さんだったようですよ。どうやら怨恨のようで。」
「そうですか、では私も解放ですか?」
そうですね、と安室さんが言ったのと同時にスマホに通知が来た。すみません、と言いながら通知を見ると紫樹からエントランスホールに居るとのことだった。
「お隣りさんですし、送って行きましょうか?」
「いえ、大丈夫です。これから知り合いに会わなければいけないので。」
そういうとパーティホールを後にした。