最終的に願い事は一つに絞られる
何時ものように執務をこなしていると、三夜が差し入れです、と言って菓子と茶を運んできた。
三夜と紫樹は幼馴染ということもあって、俺にとっては気兼ねなく言葉を交わせる人間だ。
「ありがとな。」
そう返すと、ふと三夜の手首を彩る数珠が目に入った。
「どうかいたしましたか?」
「…いや、」
その数珠は自分が三夜に下賜したものだった。
普段から身につけるように、と言って。
そもそも、その数珠の持ち主は和仁ではなかった。
己が幼い頃に亡くなった祖母である万里小路 房子(までのこうじ ふさこ)が使用していたものであった。
お梅曰く、祖母にも俺と同じような見鬼の才を持っていたらしい。
お梅は祖母の女房だったからな。
俺の朧げな記憶では、この数珠が身を守ってくれるようなことを言っていた気がする。
貰ったのは祖母が亡くなる数日前。
実際に、この数珠は俺を守ってくれていた。
それから数年の月日がながれようとしていた。
そう、三夜と初めての出逢いの数日前に数珠が切れたのだ。
あの時、三夜が現れなければ俺は…、
後に尋ねたところ、久脩の見たてでは護りの効力が切れた故に紡いでいた紐もまた劣化してしまったのだろう、ということだった。
だから、俺はこの数珠を久脩に頼み普段から霊力を貯めることが出来る物に変えて貰った。
見鬼の才がある、といっても俺は霊力を多く持っているわけではない。
結局は三夜や久脩に頼ることになってしまう。
だからせめて、戦う時に補助出来るものがあれば…
それが俺の願いだった。
今では、すっかり三夜に馴染んでいる。
願わくば、彼女が俺の為に死ぬことがないことを望む。