三夜の容姿は八歳ほどの年齢から全く成長していない…それは他でもない三夜自身が望んで過ぎたる力に枷をかけた結果である。なお、実年齢は二十三歳であるが精神年齢に関しては数え切れない時を過ごしているため、最早本人すら把握をしていない。そのため、外見と実年齢と精神年齢が全く噛み合わないちぐはぐな存在として此処にいると言っても過言ではないのかもしれない。

この世界は、三夜が石田三夜として存在した世界とは勢力図が大幅に違うと言える。例えば、兄である武田信玄はまだ三十二歳という若さであるのに対し、真田幸村や直江兼続、石田三成は三夜と同い年である。また前述した三人は幼き頃より幼馴染みであったようだ。そして、そんな彼らよりも伊達政宗のが歳上である。三夜が一番驚いたのは、やはり石田三成の主君が豊臣秀吉ではなく、織田信長であることか。あの苛烈な織田信長にへいくわい者がよく仕えることが出来たものだ、と正直思ったものだがどうやら色々な事情があるらしい。

というのは、もちろんこの城主である武田信玄からの情報だ。私がこの城に来たのは兄である信玄が元服した頃である。元々、父である信虎と側室である母との間に産まれた私は母の実家で育てられていたのだが母が亡くなった同時に引き取られたのだ。きっと、引き取られた理由は外交的に嫁がせるためだと私は予想していたが実際、躑躅ヶ崎館に来た時には父は信玄に追放されていた。その頃はまだ年相応の成長を私もしていた。その当時耳にしたのはとある奇妙な噂だった。今の当主は容姿は一緒だが、別人なのではないか…そんな話が一部の女房達の間で囁かれていた。所謂、本の虫であった人間があんな活発的な当主になるものなのか…とも。もちろん、成長期の少年が青年に変わるという多感な時期なのだから内外面の変化が現れたとしても、さして問題はない…むしろ健全だ。彼女達が感じたのはもっと別なことだったのではないか、と今では思う。なぜなら、この屋敷を包み込む空気が異様なものに変わりつつあるのを肌で感じたから。噂をしていた彼女達は程なく、嫁いだり実家に戻ったなどの理由で屋敷から辞していた。

「三夜ちゃん、どうかしたの?」

「いいえ、なんでもありません…優殿。」

首を傾げる目の前の彼女はなんとも可愛らしい、そしてその表情に垣間見る艶めかしい所作は彼女が本来持つものなのか。それとも、彼女の胸元に根付く烙印ゆえか。そんな彼女の全てが武将達の心を掴むのだろう。屋敷を支配する異様な空気は彼女が来てから増していた。そう、まるで彼女のために用意されていた鳥籠のようだ。兄は、信玄は、彼女に外の情勢を知られたくないようで女房達に箝口令を敷いている。もちろん、私とて例外ではないのだが。その溺愛ぶりには正直狂気を感じると言わざる負えない。


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