いち






久々に京の都に戻ってきたら、邪なる空気が都に渦巻いていた。和仁からの命を受け暫くの間、三夜は江戸に赴いていた。江戸に赴く前に都に張ってある結界を強化して出たというのに、なぜこうも空気が悪くなっているのだろうか。いくら、江戸幕府の情勢が傾きつつあるからといって人々の不の感情だけでここまで邪気が発生するとは考えられない。
御所に張った一番強力な結界に支障は生じていないのが不幸中の幸いか。いや、我が家の当主である土御門晴雄の力があってこその支障なしか…

「何か良からぬものが住み着いたのかしら?」

そうぽつり、と呟いたがまさか本当にその通りになるとはこの時点では思っていなかった。

晴雄さんと和仁様に帰還の挨拶と報告をしたあと、暇を貰った。
その時に晴雄さんから最近、京の都の夜を闊歩する赤目の化け物の話を聞いた。どうやら、私が京を経ってから発生したらしく、その容姿は非常に目立つ白髪に赤目であるとのこと。白髪といって思い浮かぶのは鬼の本来の姿なのだが…そう考えながら四条の通りを歩いていたら、先の飯屋の前でなにやら揉めていた。不逞浪士と男の子…いや、あれは……雪村、千鶴さん?江戸で知りあった鬼の女の子がそこには居た。最も、彼女はそのことを自覚していないようだったが…彼女は何故京に居るのだろう?そして、なぜ男のような姿をしているのか。そうこうしてる間に相手が大人気なく抜刀しようとしていたので、懐に入れてあった鉄扇を出し投げた。見事、浪士の首に命中。

もう一人が目を丸くしたあと、状況を把握したようで此方に抜刀して襲いかかってきた。振りが大きいため、見切ることなど他愛もないことだった。軌道からそれ避けると同時に男に足掛けをする。受け身をちゃんと取らなければ足掛けだけでも、それなりに痛いものだ。相手が悶絶してる間に最初の浪士に食らわせた一発の際に落ちた鉄扇を拾いあげ、意識がある浪士の喉元に突きつけた。

「まだ、やりますか?」

そう一言言えば相手は後ずさった。だが、残念。後ろにはダンダラ模様に浅葱色の羽織を着た狼が居たのだから。

「ったく、逃げるくらいなら最初から絡むよな…千鶴、大丈夫か?」

観念した浪士に対し、羽織を着た隊長格だと思われる男は部下に指示を出した。これが、噂の新選組か。私が京を離れた同時期に彼らは江戸から上京したらしいので、実物は今回初めて見る。度々、紫樹の文に新選組の事柄が記してあったので存在そのものは知って居たのだが。

「原田さん、ありがとうございます。」

千鶴さんはすそ払いをしたあと、隊長と思わしき男にそう言い一礼した。何故、彼女が新選組と親しいのだろうか?

「礼なら、まずそこの姉ちゃんに言うべきだな。」

原田と呼ばれた男がこちらを指し、そう言った。そこで、初めて千鶴さんの顔色が驚愕の色に変わる。その様子に原田は驚いた。

「………!三夜さんですよね!?なんで、京都に?」

どこに、そんな瞬発があったのだろうかと思うほど素早く距離を縮められ、一歩後ろに下がった。さすが、東の鬼を束ねる一族というべきか。

「江戸へは用事があって行っていただけですので。生まれは此方ですし…」

まさか江戸での知り合いに会えるとは思っていませんでした!と言い喜びを全身で表す彼女を側に苦笑いするしかなかった。

「そういえば、千鶴さんは何故京の都に?」

そう問うと一転、彼女の顔が曇った。

「父様が京へ出てから一ヶ月連絡がなくて…心配になって…」

よく、此処まで辿り着けたなと正直感じた。江戸という町は諸大名の妻子らが多く暮らしているため関所で女子供の審査が厳しいのだ。彼女は純粋そうだから関所の役人に金を握らせる、なんてことをするように見えないのだが…それとも関所を迂回したのか?私は前者でも後者でもなく正式に関所で手続きを踏んでいる。親王の書状はまさに鶴の一声と言うべきか。私が彼女に会ったのは、彼女がまだ診療所で父君と共に暮らしていた頃である。いつも柔和な笑みを浮かべていたが、分かる人間には分かる特有な匂いを纏っていたのであまり良い感情は抱かなかったのだが…

「申し訳ないのですが、私が京に戻ったのはつい先日のことで…」

眉を寄せ、困ったようにそう言えば彼女は慌てたように口を開いた。

「いえ、こちらこそすみません。」

「もし、見かけたりしたら千鶴さんに連絡させて頂きますね。どちらに連絡すれば良いでしょうか?」

その言葉に千鶴さんが慌てて原田さんの方に目をやった。すると、全てを理解したようで千鶴さんの代わりに口を開いた。

「そんときは壬生の屯所に来てくれ。」

好意的に言う原田さんを見る限りは紫樹が言うような無作法者の集団には見えないが。

「……分かりました。では、私はこれで。」

一礼して彼らの前から去った。


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