弐
天霧に頼まれ、三夜は天王山に来ていた。
その頼まれ事とは風間を止めることだった。
どうやら彼は幕府側の新選組に興味があるらしい。
ほら、今も新選組と対峙してるし…。
「口だけは達者らしいが…まさか俺を殺せるとでも思っているのか?」
浅葱の羽織りを纏い、長い髪を高い位置で結んだ男が風間と斬り合っていた。
三夜は二人の間に一枚の符を放ち言霊を唱える。
すると符は発光した。
「千景さん、そこまでにしたらどうですか。貴方の役目である足止めはもう必要ないと思いますが。」
三夜はそう言い、天王山を指差した。
新選組は狐の面をし、怪しげな術を用いる新たに現れた人間に警戒した。
声の質からして狐の面をした人間は女だろう、と新選組の副長である土方は予想を立てる。
「三夜か。ふんっ、今日は此処までにしてやろう。」
きっと風間には天王山からは自害した真木保臣率いる十七烈士の血臭がしているのだろう。
私には分からないが、幾つもの新たな魂魄がさ迷っていることは気配で分かる。
死んですぐには冥府の官吏の手下も現れなかったのか。
いや、現れられなかった…のが正しいのかもしれない。
これだけ死者が多ければ、さぞ大変だろう。
このまま去るのも流石に申し訳ない気がするので三夜は天王山に足を向けた。
「三夜、何処に行く。」
その様子に風間は訝しげに眉をしかめる。
「天王山に。」
その言葉に新選組が息を呑む。それもそうだろう。彼らの一部は天王山に真木保臣達の生死を確認しに行ったのだから。
「てめぇ…!」
先程まで風間と対峙していた男は声を荒げた。きっと私が彼らの仲間を殺しに行くと思ったのだろう。
三夜はその男に一瞥すると、再び風間に向き言葉を重ねる。
「私には彷徨える霊魂を放っておく主義は無い。」
その言葉に風間は少し口元を緩めた。
「…分かるのか。」
以前、彼に話していたがやはり真に信じていた訳ではなかったのだろう。
三夜は無言で頷く。
「好きにすればいい。」
その言葉を聞き、三夜は天王山に向かった。
そこには矢張り、新選組の隊士が居る訳で…
「お前、何者だ!?」
鉢巻きのように緑の手拭いを巻いた男が言う。
三夜は、その言葉を気にせず前に出た。
視界に広がるのは屍…。
三夜は破魔刀を抜刀する。
柄についた魔除けの鈴がリンリンッ……と鳴る。
その様子に新選組側に緊張がはしる。
が、三夜はそれを地面に刺した。
「………、………。」
そして二言ほど何か言葉を放った。
すると、刀を刺した場所を中心に五芒星の陣が現れ光を放つ。
「なっ…!」
光は次第に広がり屍を包み込んだ。
光がおさまると無数の人魂がうっすら消えてゆくのが目にはいったが、それも刹那のことだった。
「ご冥福をお祈り申し上げます。」
三夜はぽつりと小さな声で呟き刀を鞘におさめた。
陰陽師の仕事は基本的に妖怪や悪霊を祓うことだ。
つまり言い方は悪いかもしれないが、悪霊を祓うことと死者の魂を導くことは同じ訳で……違うとするならば、それは悪意があるか、その一点だろう。
「あんた今一体…。」
先程三夜に声をかけた組長と思わしき男が声を出す。
「永倉、無事か!?」
その言葉と同時に無数の足音がする。
三夜は嘆息し、言葉を紡ぐ。
「縁があれば、またお会いするでしょう。」
そう言った次の瞬間、三夜の姿は無くなっており残るのは舞い散る菊の花弁だけだった。
――――――
あとがき
新選組との邂逅篇
新選組側、特に土方さんからの印象は悪いです。
ただ永倉さんからは意外と好印象をうけています。
主人公は色々とパワーアップして人間離れが否めなくなってきていたり…
消える時に菊の花弁だったのは追悼の意、そして三夜の敬う御上に対しての忠義の証し、2つの意味合いが込められています。
この辺りで既に人間離れ(笑)
土方達より先に天王山についたのも同じ理由です。
薄桜鬼連載、書いていると意外と楽しいんですよね!