壱
そよ風が通り抜ける草原に三夜は髪を揺らしながら立ち尽くしていた。
そこは、かつて天下分け目の戦いが起こった関ヶ原の地だった。
今は何もない。
人も屍も、
なぜならば、あれから250年の月日が流れようとしていたのだから…
――――――
「風間!何処に行くんです?」
赤茶の髪を持つ体格の良い男が話しかける。
男の名は天霧九寿。
「…関ヶ原の地に行く。」
ぶっきらぼうに返した黄金色に輝く髪を持つ男の名は風間千景という。
「それは…また、突然ですね。」
天霧は溜め息をつつ、この男はいつも物事の行動を突然起こす…と思っていた。
「理由を聞いても宜しいでしょうか?」
そう言うと風間はふんっ…と鼻で笑った後に口を開いた。
「彼の地は我々、鬼が東西に別れるきっかけになった地だ。これからの行動に及ぶ前に一度見たいと思ってな。」
「…止めはしませんが、きちんと日にちを守って下さい。」
関ヶ原から直接、京の都に向かうことになるだろう。京には自分たちが協力をしている薩摩藩の人間がいる。彼らとの約束を違える訳にはいかない。
「約束は守る。それが鬼の矜持だからな。」
そう残し、風間は関ヶ原へと向かったのだった。
――――――
かつて鬼は東西に別れ、関ヶ原の戦いに臨んだ。
それは決して彼らの意志によって行われたことではなく、人間がそれを望んだから協力したまでのこと。
西側についた鬼は関ヶ原の大敗後、追われる側となった。
匿ってくれた人間達に恩を返すべく、薩摩に手を貸すことにしたのだった。
「此処が関ヶ原…か。」
既に戦の名残など残っておらぬ地を踏みしめ言う。
「やはり何もないか…いや、」
誰か居るな…、その言葉を呑み込み気配のする方へと向かう。
そこには茶色の髪をたなびかせる女の姿があった。
「貴様…何者だ。」
その女から感じるのは人間とも自分達鬼とも違う気配だった。
「貴方こそ人間ではないでしょう?」
女は振り返りながらそう言った。
「ふん…やはりただの人間ではないのか。まぁ、忌み嫌われるこの地に女一人で訪れる時点で普通ではないか。」
「…そうかもしれませんね。」
風間はその女に興味を持った。ただ単純に…。
「俺は風間千景と言う。貴様は?」
「私は石田三夜と申します。もし宜しければ、西国の当主殿、私も一緒に連れて行って貰えませんか?」
「……!何故それを知っている?」
風間家の当主である俺が西国を束ねていると分かった?
「…あて勘だったんですけどね。」
女は苦笑いをしながら言った。
「それに、千景殿は――殿にそっくりの顔立ちだったので。」
女が呼んだ名前は関ヶ原の戦いの時に風間の当主だった鬼のものだった。
「ふっ…面白い。良いだろ、貴様を連れて行ってやる。」
「ありがとうございます。」
この女が何者なのか知りたくなった。
―――――
あとがき
勢いで書いた薄桜鬼混合。新選組側ばかりではつまらぬので、鬼側のお話です。この後、主人公は薩摩側の人間として色々と関わります。新選組とは味方でも敵でもなくどっちつかずの態度をとります。基本的に天霧がいない時のストッパー役。主人公が関ヶ原の戦いにいなかったのは天照大神に呼び出され訪れているうちに250年経っていた為。正に浦島太郎状態。関ヶ原に向かうまでにこの時代のことは把握済み。