あの星に届かぬこの想い
「今日は七夕ですね、久脩さん。」
三夜は夕暮れ時の空を見ながら言った。
「そうですね。織り姫と彦星が唯一会うことを許された日……三夜は誰か会いたい人は居ないのですか?」
一口、茶を飲み久脩が言った。
現在、三夜と久脩の二人は縁側で夕涼みをしている。
「会いたい人ですか?そうですね……、弟と行成様に会いたいです。」
その言葉に久脩は目を丸くした。
「行成様とは、あの蔵人頭を勤めた……?」
久脩は驚きつつ問う。
「えぇ。」
「三夜の想い人、ですか?」
「……というよりは私の伴侶、と言った方が正しいですね。」
「…三夜の伴侶があの出世頭と呼ばれた藤原行成殿ですか?」
三夜はその言葉を聞き苦笑いをした。
「どうやら私と行成様の縁は歴史から消されてしまったようですね。」
そもそも、私の記録が残っていたのでさえ奇跡に近かったですし…と三夜は言葉を続けた。
「それはどういう…。」
そこまで口に出し、久脩は固まった。
「まさか、三夜は呪いで命を…?」
「そもそもは行成様にかけられた呪いを私が受けたんです。存在さえも消してしまう強力なものでしたから…きっと、父や甥のお陰ですね。」
そう言い三夜は小さく笑った。
「私は彼を、行成様を庇い死んだことに後悔はしていませんし。」
「そう、ですか……。」
久脩は言葉に詰まりつつ、空に目線を向け空気を変えるかのように新たな話題を振った。
「大分、暗くなりましたね。そうえば三夜に弟が居たというのは初めて聞きました。」
「……双子の弟が居ます。何も言わずに家出という暴挙に出てしまったので心残りで…。」
そう言い、三夜は団子を頬張った。
「双子、ということは容姿がそっくりだったんでしょうか?」
「私が髪を短くすれば、多分見分けはつきませんよ?」
くすり、と三夜笑った。
「そんな久脩さんには居ないんですか、会いたい人。」
「……居ませんね。」
少し間があった後にそう言った。
今の間は何か思いあたる人が居たから故なのだろう。
気になりはするが、本人がそう言うならそう言うことにしておこう。
「なんか私だけ語った気がします。」
場の雰囲気を変える為三夜は少し口を尖らせ子供のように言う。
「珍しいですね、三夜が拗ねるとは……あ、ほら天の川が見えますよ?」
久脩は話を逸らすかのように天を指差した。
「………綺麗。」
三夜は感嘆の声を上げた。
「そうですね。」
三夜は庭先に出て宙に手を伸ばした。
彼女の手に沿うかのように天の川がそこにある。
久脩がふと、視線を手から三夜に移すとそこには黒髪の女性が居た。
己の目を疑い、一度瞬きをしたところ、そこに居たのは紛れもなく三夜で……。
一体今のは何だったのだろうかと考えていると三夜が不思議そうに此方を見ていた。
「どうかしましたか?」
「今、一瞬……いえ、なんでもないです。」
20120707