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結論から言うとあの後、朝議にかけ正式に決定した内容を紫樹が羽柴秀吉に伝えることになった。

普通は使者を送れば良いのだが、何故わざわざ右大臣の紫樹が行くのかというと…

例の件があったからだ。

三夜が赴くだけでは帰して貰えない可能性があるので、紫樹が勅書を届けるついでに三夜を迎えに行くという寸法だ。

それなら問題無いだろう。

ということで三夜は黒尾を連れて三成の屋敷を訪れてる訳なのだが…

何せ、会うのは十年ぶりだ。

どう会えば良いのやら…

「おや…殿に何か用ですかい?」

背後から不意に声を掛けられ、驚き振り返ると頬に傷がある男性が立っていた。








頬に傷がある男性、もとい島左近は私用で出て戻ってきたところ己が仕える主の屋敷に人影があるのに気付いた。

その人影は笠を被り軽装の旅人に身を包んだ女性に声をかけた。

「おや、殿に用ですかい?」

この屋敷を訪れるということは己が主に用があるということだろう。

「……、はい。」

振り向いた女性が返事をした。

と同時に笠の下から見えた女性の顔に目を見開く。

顔が殿と瓜二つだったのだ。

違いと言えば、その笠からはみ出し背中へと流されている茶色の長い髪や殿と違い女性らしさがある桜色の唇だろうか。

暫し驚きに停止した後肩にこの間、黒尾と呼ばれていた猫が居ることに気付く。

「あぁ、貴方が三夜さんですか。」

そう言うと笠の下で驚いた気配がした。

「私のことをご存知なのですか?」

三夜が笠を取り、顔が露わになる。

「えぇ、殿が仰ってましたから知っていますよ。自己紹介がまだだしたね、私は島左近と申します。」

その言葉に三夜はピクリと肩を揺らした。

島、左近……名士として有名な武将であることは何度も聞いていたことはがあるが、まさか自分の弟が召し抱えているとは……

「ご存知のようですが、一応…石田三成が姉、石田三夜です。」

改めてお辞儀をする。

最も現在では石田姓を名乗ることは殆ど無いのだが。

家出した時点で本名を名乗るのははばかれる。

何時連れ戻されるか分かったものではないからだ。

それに、陰陽寮へ出仕するにあたり久脩さんの養子となった為、当たり前だが今名乗るべき苗字は土御門なのだ。

「こんな場所で立ち話もなんですから、屋敷に入りましょう。」

そう促され、三夜は屋敷に足を踏み入れたのだった。

「おかえりなさいませ、左近様」

すれ違う侍女がお辞儀をした。

顔を上げ、後ろを歩く三夜を見て息を呑む。

「三成様?」

やはり姉弟というものなら似るものなのだろうか。

その言葉に三夜は困ったように苦笑いをした。

「此方は殿の姉の三夜さんです。」

左近がそう言うと侍女がまた目を見開いた。

「貴方様が三成様の……、」

一瞬、侍女の目が煌めいたのは気のせいだろうか。

「では、此方に付いて来て下さいませ。」

ということで侍女の方を筆頭に三成の部屋へと向かうことになったのだった。



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