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「三成、お前の姉は大層美人だと聞いたんじゃが…」

――全ては羽柴秀吉、その人の言葉が発端であった。

「大阪城に連れて来ぬか?」

出来事が起こったのは小牧・長久手の戦いで徳川家康を配下に下した後のことだった。

「姉を、ですか。」

その言葉に三成はピシリ、と固まった。

双子の姉である石田三夜は数年前から実質的行方不明であった。

唯一、連絡を取ることが出きるのは片割れである三成だけだった。

と言っても、居場所を知っている訳ではなく彼女の飼っていた黒猫が文を運んでくれるだけなのだが。

話を戻そう。

結論から言うと、主君である秀吉にそう頼まれ三成は断ることが出来なかった。

普段の三成であったならば、主君であろうとその話を一刀両断していたかもしれないが、今回はその奥方である寧々にまで請われたのだった。

子飼いの武将は基本的に母のように己に接す寧々だけには、頭が上がらなかった。

三成も例外では無かった。

子飼いは武将ばかり、つまり男が多い訳で……娘が欲しかっのよね、という寧々の言葉に三成の反対もあえなく失敗した。

寧々が他の子飼いに女の子欲しいでしょう?と言ったのも一つの原因なのだが。

ということで、三成は事の次第を文にしたため例の黒猫に括り付けた。

「おや?殿、その黒猫に何をしているんです?」

そこに現れたのは左近だった。

「見た通りだ。文を付けている。」

ああ、また面倒なやつが現れたと舌打ちをしつつぶっきらぼうにそう答えた。

「文、ですか?黒猫が届けてくれるとは…殿もついにやきがまわ…」

「違う。」

その言葉に思わず声を荒げる三成。

からかいすぎたな、と思いつつその様子を珍しいと思い、左近は口を開いた。

「…で、本当のところはどうなんです?」

仕方無く今回の件と共に黒猫のことも左近に話したのだった。

「へぇ…、殿に姉が居るとは初耳ですねぇ。」

顎に手を添え、聞いた事実を吟味する。

自分の仕える主に兄が居ることは知っていたが、姉が…しかも双子の姉が居るとは思っては居なかった。

このご時世、そういった情報はいくら隠していても大抵は何処からか洩れてしまうというものだ。

主の父が凄かったのか、はたまたその姉が凄かったのか…

にしても、殿の双子の姉ということは殿同様見麗しい方なんでしょうねぇ…

「父は家出した姉のことは隠したがっていたからな。」

そう言い、当時の様子を思い浮かべ目を細めた。

「ですが、情報を消すということがどれだけ大変なことか殿もご存知のはずでしょう?」

「あぁ。多分、三夜が自ら消したんだろう。」

そういうが裳着を済ませたばかりの子供が己の存在を消すなど容易いことではあるまい。

「三夜、さんですか。一度お会いしてみたいものです。」

――そうして、まだ見ぬ三夜を思い浮かべるのであった。



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