内緒の裏庭






ある晴れた日、三夜は和仁の元を訪れていた。

理由は至極簡単、彼に呼び出されたからだ。

「それで、一体なんの用でしょうか、御上?」

「鷹狩をする。」

その言葉にまたか…と三夜はため息をつく。

「今回は太閤も誘った。」

続けて言われた言葉に一瞬、理解が追い付かなかった。

「秀吉殿を?」

「……そうだ。」

やや間があった後に、パチリと言う扇を閉じる音共に言葉を紡ぐ。

相変わらず、和仁は何の前触れも無しに行動に起こす。

今回は豊臣秀吉に前もって書状を送ったようだが、いつもなら当日の気分で鷹狩に行くことを突然決める。

故に周りの人間は多大な損害を受けるのだった。

「ということで行くぞ。」

「……はい。」

三夜はすぐに支度をした。

今回は東山で鷹狩が行われることとなっている。

東山の範囲は一般的に北は比叡山、南は稲荷山までとなっている。

東山というのは山の名前ではなく、京都中心部からみて東に見える山を言う。

私が居た頃、つまり平安時代からその名で呼ばれており、かなり歴史があることが伺える。

三夜達が東山に着いた頃には既に太閤殿は着いていた。

太閤殿は今日の礼を言上しようとするが、

「本日はお誘い頂き…」

「堅苦しい挨拶など不必要。」

と言い、あっさり切ってしまった。

まぁ、和仁らしいと言えばそれまでなのだが。

おかげで相手側も硬直している。

「御上、太閤殿が困っていらっしゃいますよ?」

三夜は苦笑いをし、そう言った。

「……あまり敬わられ過ぎても疲れるのだ。」

和仁はゲッソリとした顔をしながら言う。

「あんたも大変なんだな。」

秀吉の後方から清正が現れた。

「お久しぶりです、清正。」

三夜は一礼した。

「久しぶりだな、悠月。いや、今は三夜か。」

そうですね、とクスリと笑った。

三夜のことが露見したのはつい最近だ。

とても些細なことだったが、それをきっかけに豊臣と朝廷との関係が以前より深くなった。

「へぇー、あんたが頭のデカッチの姉なのか。にしても美人だなぁ。」

髪がもっさりとした男が言う。

「ふん、人の姉に手を出すな。」

三成は己の鉄扇で男の頭を叩く。

「いってー!」

その様子を見ていた和仁はこれが平穏な日常か、と口元を緩ませた。

「そろそろ始めてもいいか。」

「あぁ、そうじゃな。」

かくして鷹狩は行われた。

鷹狩は飼い慣らした隼(はやぶさ)・大鷹などの鷹を放って小獣などを捕らえさせる狩猟だ。

「にしても御上は凄いのぅ…。」

今回、一番獲物を捕らえたのは和仁だった。

やはり日頃からやっているからだろうか。

現在は鷹狩が終わり宴とかしている。

「殿、大丈夫ですか。」

「大丈夫だ。」

顔色が悪い三成が言う。

「殿は運動不足なんですよ。」

左近が大丈夫そうに見えない主に言う。

「そうえば三成は文官でしたか?」

三夜はふと思い出したように言った。

「あぁ、そうだ。三夜は陰陽師頭なんだろう?」

「えぇ。」

「なのに何故御上付きになっている?」

確かに三夜が和仁付きになっているのかは端から見れば謎だ。

彼女の陰陽師頭という役職は普段から御上と共にいれるほど身分が高くないのだから。

「それは私が御上の幼なじみだからでしょう。」

彼とは、もう10年ほどのつき合いだ。

「三夜は幸せに暮らせているか?」

それは、暗にあの日家出して良かったかを聞いているのだろう。

「はい。」

様々な人に出会いましたから、と言葉を続けた。

そうか、と一言返すと満足したように三成は酒を口に運んだのだった。

20121008



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