灯の消えた宵に






それは桃雨城を目指す道中でのこと。

今日は此処まで、ということで皆で野宿の準備一段落ついた頃…清正がふと、空を見上げてそう言った。

「今夜は月が綺麗だな。」

確かに月がまん丸で綺麗だ。

そうえば、今日は……

「今日は十五夜ですからね。」

三夜は思い出したかのようにぽつり、と呟いた。

「十五夜でござるか。確か、別名は中秋の名月とも言うでござるな。」

久脩さんもそんなことを言っていたな、と三夜は思った。

「中秋の名月?十五夜なら聞いたことがあるが…。」

「中秋の名月も十五夜も同じです。八月十五日という日は秋の真ん中の月の真ん中の日のことを言います。だから中秋なんです。」

この暗闇を照らす満月をみて言った。

「物知りなんだな、悠月は。」

清正が感心したように呟いた。

「全て、家族の受け売りなんですけどね。」

三夜も知識としてそれらのことを知っているが深くまでは知らない。

よっぽど三夜より久脩のが知識があるだろう。

「それを言うならば、十五夜に団子を供えるのは芋の代わりでそうでござるな。」

唐突に鷹丸がそう言った。

「十五夜は言わば、収穫祭ですからね。」

昔は野菜など秋に採れたものを供えていたらしいが、何時からかそれが団子なったとか…。

「ということで、月見団子を持ってきたでござる!」

鷹丸は懐から何かを取り出すと清正と三夜の前に突き出した。

中に入っていたのは白く月のようにまん丸だった。

「おまっ…何時そんなものを!」

清正が出所に驚いていると、未来からでござるよ、と鷹丸は言う。

三夜達は実際問題、村雨城をめざし初めてから一度も茶屋といったものには寄っていなかったのだから清正が驚くのも無理がないことだろう。

「さぁ、月見をしながら食べるでござる!」

「あ、あぁ…。」

鷹丸の勢いに押されつつ清正は受け取った月見団子を口にした。

「頂けます。」

三夜も口にふくむ。

「おい、鷹丸…これ固くないか?」

しかめっ面をしつつ言った。それとも、未来の月見団子はこんなに固いのか?と。

…三夜は苦笑いをしながらその様子を見ていた。

実は三夜は口にするフリをしただけで実際には食べていなかったのだ。

よく考えれば、鷹丸がこの時代に来てから大分時間が経っている。

固くなるのも当然だ。




あとがき

今日がちょうど十五夜だったので書いてみました。
旧暦の八月十五日は今頃になるんですね。
まぁ、ここ十年ほど15日が十五夜になっていないらしいですけど。
少し、オチがイマイチだったのかなと思いつつ間に合って良かったです。

20120930


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