むかしむかしの物語、其の結末





――俺は死ぬのか。

ただ漠然とそう思った。

関ヶ原の戦いで西軍は大敗をきっした。

小早川秀秋の裏切りが無ければ、もっと違う結果に終わっていただろう。

友の大谷義継や左近を失う結果には繋がらなかったはずだ。

無論、俺もこうして六条河原にて処刑されることにならなかっただろう。

今、気がかりなのは長谷堂で戦った兼続と幸村そして姉、三夜の安否だ。

この何年、探しても見つからなかったのだから今更見つかることもないだろう。それに父や兄が佐和山で亡くなった為三夜の存在を知るのは俺のみのはずだ。

「何か言い残すことはおありか。」

家康はそう言い放つ。

「われ大軍を率ゐ、天下分け目の軍しけることは、天地やぶれざる間はかくれあらじ。ちっとも心にはづる事なし。(自分が大軍を率いて天下分け目の戦いに臨んだことは、天地が破壊されない限り、隠しようもない事実として残る。それでも少しも心に恥じるところはない。)」

俺は目をそらさず己の意思を表した。

その言葉に家康は眉を寄せる。

「やれ。」

無常にもその刃が降り下げられた次の瞬間、ガキィーンという金属音が響く。

「貴様、何者だ!」

バサリ、と処刑執行者の事切れる音を聞きつつ己を助けた人間に顔を向け瞠目する。

「人の弟を勝手に殺さないで頂けますか。」

冷たくそう言い放った人間は狐の面をしていて顔こそ見えないが、その風になびく茶色の髪に見覚えがあった。

「何故、お前が……悠月っ!それに弟とはどういうことだ!?」

清正がその相手を見て驚き、そう叫ぶ。

「事実を述べたまでです。」

そう言い、三夜は三成の紐を斬り拘束を自由にする。

次の瞬間、風が躍った。

「滅。」

黒い影がその刃を向け迫る。

三夜は三成に庇い自分もその刃を逃れるが、一歩遅く狐の面に亀裂が入った。
亀裂は次第に広がり、完全に役目を果たさなくなった。

「なっ…。」

そして皆、唖然とした。
なにせ石田三成に瓜二つなのだから。

三夜はそうなることを予期していたかのように優雅に笑みを浮かべ一礼した。

「石田三成が姉、石田三夜です。どうぞ、よしなに……しなくても良いんですけどね。」

そう言い、三夜は右手を上げた。

それを合図に処刑を見に来ていた武将らを取り囲むように、錦の御旗を付けた足軽が現れる。

「一体、貴殿は何をしたいのかな?」

動揺を隠しつつ、徳川家康が言う。

「私は御上に朝敵の討伐を受けただけですよ?」

彼女は、さも滑稽だというようにクスリ、と笑った。

「朝敵だぁ?何でそうなるんだよ!」

福島正則がその言葉に喰ってかかる。

「貴方達は御上を蔑ろにしましたよね?まぁ、正しく言うならば徳川殿は豊臣と違い、朝廷には権力を持たせたく無かったようなので先に手を打たせて頂きました。」

「だが、それで民は納得するかのぅ?」

家康は、そんなこと不可能だ…と言った。

そこに、また違う者の声が響く。

「納得する。俺の人望を舐めないで頂きたいな、徳川殿?」

「御上!」

三夜と三成の背後の森林から数人が現れた。

「あなたは…!」

徳川家康もその声には聞き覚えがあった。

秀吉が豊臣の姓を拝命した際に彼自身、お供していたのだから。

一方、三夜はあれほど来るなと念押ししたのに…、と嘆息していた。

「申し訳ありません、三夜。」

和仁の後ろに控えていた久脩が苦笑いをしつつ謝る。

「ですが…」

「和仁に厳命されちまうと俺らには逆らえないんだよな。」

その言葉を引き継ぎ、右大臣である紫樹が言う。

「はぁ…。」

確かに、この様な事態になることは一応予測していたが、やはり溜め息の一つや二つつきたくなる。

「さて、如何する?」

和仁は悠然と笑みを浮かべ言葉をたたみかねる。

「ちっ…、撤退する。」

徳川家康は忌々しそうに撤退の号令をかけた。

三夜は立ち去る徳川一行を凝視しつつ、もう一度戦が起こることになりそうだな、と思いつつ背後に匿った三成に視線を向けた。

「三成、ごめんね。」

三夜は今までの様々な事象を含め口を開いた。

「俺がどれだけ心配したと思っている!」

三成は声を荒らげ言った。

「姉上が、三夜が無事で良かった…。」

三夜は苦笑いするしか無かった。己はここまで弟に負担をかけてしまったんだな、と…

こうして三成の処刑は阻止されたのだった。

――――――
あとがき

戦国無双を連載する上で私が一番執筆したかったのが今回の話です。
どうしても、三成の処刑を執行したくなかったんです(;_;)なので三成の命日である今日、書かせて頂きました。

本編でオリキャラが多くなってしまったのも、どちらかというとこの話の為です。
三成を助ける際、どう助けるのが良いのか…と考えた時に私は主人公が朝廷の人間だったなら…と思いました。この時代は朝廷がどうのこうのというよりは武士が主導権を握っている時代です。
公家の方々は不満があったのではないか、と…。
それを考え、たどり着いたのが陰陽師設定だったのですがよくよく調べてみると、織田信長と豊臣秀吉が今まで続いていた陰陽師を京から追放してるんですよね。徳川の時代からはまた登用されたみたいですが。
それを考慮すると、この話はオリジナルの産物になるんです(笑)
ちなみに後陽成天皇が豊臣の時代には担ぎ上げられたのに体し、徳川の時代になってからは蔑ろにされたのもまた事実です。
待遇の落差を後陽成天皇はどう受け止めたんでしょうか。
結局は、幕末に幕府は倒され朝廷が勢力を拡大しますがそれはこの戦国時代があったからなのでは、と私は思います。

ここまで読んで下さりありがとうございましたm(_ _)m
これからも『石田さんちの陰陽師』をよろしくお願いします。

20121001



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