絡まる運命の輪






三夜は淤加美神に頼まれた仕事をこなすため、早々に化野を訪れた。

「……思っていたより邪気が強いですね。」

思わず、はぁ…と溜め息をつく。

私にとって妖怪をちゃんと祓うのは、かなり久々のことだった。

確かに、今までも妖怪を退けたことはあったが祓ってはいない。

祓うにはそれなりに力を使うから今までは実行しなかったのだ。

『―俺たちも補佐をしよう。』

そう言い、姿を消していた六合が現れた。

『……そうそう、主が己の力を使うのは久しぶりなのだからな。無茶は禁物だ。』

白虎もその言葉に続き姿を現した。

「あはは…、二人ともありがとうございます。」

自分の式神に心配されるなんて、ね。

化野は京都の中心より西にある小倉山近くに位置する。

平安時代初期の頃、化野には野ざらしとなった遺骸が点在する風葬の地であった。当時の人々は嫌悪と畏怖の念を込め“仇し野”と呼んでいたそうだ。

風葬の地には弔われなかった魂も多数あり、それらが悪霊や妖となり人々に恐怖を与えていたのだ。

だから鎮魂の任を持つ寺社が化野の近くに多数存在している。

私が生まれた頃には、既に風葬の地ではなく化野念仏寺がそこにあったが……。
弘法大師こと…空海が墓守の寺を建てた為、土葬の地となった。

今では昔ほど悪霊などの出没率は低くなってはいるが……

やはり邪気が示す通り、未だにその類のモノは消え去ることはないのだろう。

「……来ます。」

三夜が言葉を紡ぐと同時に辺りの空気が淀んだ。

――オ前ノ魂ヲヨコセ。

空気を震わすような邪気が辺りを駆け抜ける。

「嫌です。」

三夜は胸の前で剣印を作り、何時でも応戦出来る体制に入った。神将二人も三夜の前で構えている。

――ナラバ力尽クデ奪ウマデヨ。

その言葉と同時に鋭い風が三夜を襲ってきた。

「万魔拱服、急々律令 早々に退散せよ。」

神気の風が悪霊に襲いかかるが、紙一重のところで直撃を避けられた。

「ちっ、」

柄になく思わず舌打ちをしてしまった。

しかも、間合いを詰められてしまう。

このままだと冗談抜きで死ぬね…!

『烈風!』

白虎の鋭い声と共に小さな竜巻が三夜と悪霊の間に入り、悪霊は後ろに下がった。

『主ー、危険な掛け合いは止めて欲しいんだけどな。』

「すみません、こんなに鈍っているとは私自身思ってなかったもので。」

思わず、白虎からの説教に苦笑しながらそう言った。

『―――来るぞ!』

六合の叱咤の声が響く。

攻撃の瞬間、ギリギリのところで避ける。

「あんまり長くは持ちませんね。」

私は元から体力がある人間の類ではないぶん、そんなに避け続けることは出来ない。普通の女子よりは刀を扱ってたぶん有ると思うが…。

「それにしても、あの悪霊…」

一体の悪霊にしては邪気が強すぎる。もしかして、単体でなく複合体なのか?それなら、この強さも頷ける。

さて、どうするか。

「六合、奴の動きを止めて貰えますか?」

『承知した。』

六合は即答で引き受けてくれた。

三夜は剣印を構え直す。

六合が樹縛で悪霊の動きを止めた。

樹縛とは木々を操り敵方の動きを止めさせる術だ。

「臨める兵 闘う者、皆陣列れて前に在り!」

三夜が詠唱すると同時に六合が動きを止めた悪霊を眩い光の刃が突き抜ける。
すると、辺りの邪気が一瞬にして浄化された。

「退治、成功ですね。」

三夜はそう言い、一息つくとその場に倒れこんだ。

幸い、白虎が受け止めた為大事には至らなかった。

『どうやら、霊力を最後の一発で出しすぎたようだな。』

六合がため息を尽きながら呆れたように言う。

『主も相変わらずだよな。だけど、今日の霊力の使用料は本来の潜在能力の10分の1程度なんじゃねぇか?』

白虎は近くの木陰に三夜を運んだ。

『…誰か来る。』

唐突に六合が警戒の声を発する。

耳を澄ますと、段々此方に近づいてくる足音がした。

六合と白虎はとりあえず隠形した。

「何故、こんな所に女子が……!」

近づいてきた人物がそう声を発する。

三夜より少し年上の狩衣を纏った青年の姿が月に照らされ露になる。

「とりあえず、移動させた方が良さそうですね。」

二人はその様子を見守っていた。

昨夜の淤加美神の予言によると、この人物こそが三夜の助けになる人物かもしれない可能性があったからだ。

それに、青年から感じる霊力は三夜には劣るが常人以上のものであったから二人は傍観を決め込むことにした。



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