冷たい風に映える紅色






「父上、今なんと?」

三夜は父に聞き返した。

佐吉に呼ばれ父のいる館に来たまでは良かった、が…

「……三夜、お前の婚約が宮部家の次男である伊助殿と決まった。」

父は突然私の婚約が決まったと言った。

「お待ち下さい、父上。私は今年、裳儀を済ませたばかりです。まだまだ若輩者である私が嫁ぐなど…。」

第一、私はまだ齢十二だ。

前の‘私’は齢十五で嫁いだのに。

「三夜なら問題あるまい。其処まで話せる女子もそうそういまいしな。」

父は私をあやすように、優しい声色でそう言った…。

「それに今回の件は向こうがわざわざお願いしてきたから踏み切った縁談だぞ?」

私がそんな説明で納得するとでも?

三夜は手に力を入れながら、ただ耐えこう言った。

「分かりました。では、私はこれにて。」

声の震えを抑えながら一礼し、その場を去ったのだった。

「……三夜、父上は何の話だったんだ?」

父の館を出て、暫く歩いたところの大木に寄りかかった佐吉がいた。

開かれた口から紡がれた問い。

「私の婚約が決まった、と……。」

三夜俯きながらがそう言うと一瞬、佐吉は顔を強ばらせたが直ぐに何時もの表情に戻っていた。

「…そうか。三夜も、嫁ぐのか。」

佐吉は三夜から視線を外し色が変わり始めている木の葉を見る。

「私が嫁げるはずがないという言い方ですね。」

「三夜の性格を知っている俺には相手の気持ち理解出来ぬな。」

佐吉は、そう言い放った。

「……出来るなら、私だってこんなに早く嫁ぎたくないですよ。」

三夜は聞こえるか聞こえないか…とても小さい声で本音を漏らした。

佐吉は三歳の頃、寺に出された。

だから実質、三夜と佐吉が共に居た時間はそう長くはない。

本来、双子は忌み子とされ嫌われるものだ。

が、佐吉と三夜はその容姿の良さから邪険に扱われることは一度も無かった。

ただ、顔がそっくりなので同じ場所に二人共にいることは父が許さなかったのだが。

「佐吉、」

「何だ?」

三夜は佐吉の名を呼び、己の腕に付けていた二つの数珠のうち片方を外し、佐吉の手に握らせた。

「これは…?」

佐吉の手の中で光るそれは、澄んでいてとても綺麗だった。

「お守りの数珠。それを私の代わりだと思って頂戴?」

「代わりなど…!」

そう言い、手にした数珠を返そうとするが上手くかわされた。

「じゃあね、佐吉。」

その一言と共に儚げな微笑みを残すと三夜は立ち去った。

「…姉上、」

佐吉がそう呟いていたことを知る者はいない。

そして、それから一週間後…佐吉は己の姉が失踪したことを知る。



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