落下する夢、堕落の現実






私には幼い頃から人ならざるモノが見えていた。

「母上、あれは何ですか?」

幼い私は庭先に居た何か指をさして問う。

「三夜、何を言っているのです?あそこには何もありませんよ。」

母は私をあやしながらそう言った。

「でも――、」

確かにそこには何かがいた。

人々はその能力を――見鬼の才と呼ぶ。

見鬼の才を持つ人間は妖にとってはその霊力故の最高の供物。

私自身、何度も襲われかけたがその度に何故か体が覚えているかのように勝手に動きそれらを退けた。

まるで、己の体ではないようで…とても怖かった。

そして時が経つほど蘇る記憶は、前世の私自身のものだとある日唐突に私は理解した。

私は安倍晴明の娘

安倍三夜だった、と…。

安倍晴明と言えば、この戦国乱世の時代でも稀代最高の陰陽師としての平安時代の記録が残っている。

そんな晴明の娘だったからこそ、私も見鬼の才と陰陽術を駆使して夜な夜な妖怪退治をしていた。

女である私が陰陽師として陰陽寮に勤めることは出来ないから…。

あれから六百年ほどの月日が流れているが、私…石田三夜にも類い希なる見鬼の才があるのは魂が巡り戻ったからだろうか。

いや、逆に言うとそれ意外に原因がない、な…。

「はぁ…。」

私は溜め息をつきながら考えることを放棄した。

「三夜!父上が呼んでいる。」

不意に聞こえた声は、私の弟である佐吉のものだった。

「分かりました。すぐ行きます。」

それは石田三夜、齢十二の初秋の出来事だった。


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