翠の森で逢いましょう
「この山々を越えゆくと、赤雨城がござる。そこでも、宝玉を手にした城主が異形を操っているはず。ですが、青雨城を制した貴殿らの武があれば、宝玉の力も怖れることはござらん!」
そう言い、鷹丸は懐から宝玉を出した。
それは青色で不思議な発光をしていた。
言うならば綺麗、というよりは禍々しいと言った方が正しいのだろうか。
見た感じは宝玉に相応しい煌めきだが、気配は邪悪な物だ。
最も、それは城主の手元にあった時の話で大分落ち着きはじめているのだが。
「…拙者は、ムラサメとの戦いの最中、光に包まれ、この地に降り立ち申した。定かではござらんが…その光は宝玉から発せられたような…。」
そう言い、己の手に収まる宝玉に視線を向けた。
「不可思議な力をもたらす宝玉。これは一体、何なのでござろう…。」
一人心地に鷹丸が呟くが、此処にその問いに対する答えを持つ訳ではないので皆、首を傾げるばかりだった。
「…ともかく行くしかないな。」
「ムラサメを追えば謎は明かされるでしょうしね。」
そう意気込み、暫く歩いていると丸太橋が見えて来た。
人、二人が横並びで歩ける長さがあるが橋自体は相当古く、二人も歩いたら重さで橋が崩れ落ちそうだ。
「そうでござるな。今はここを越えるでござる、清正殿、悠月殿!」
鷹丸のに言葉に頷き、一人ずつ丸太橋を通る。
「うら若き女性が一人で異形の相手を!」
すると一番最初に丸太橋を渡った鷹丸がそう言った。
その言葉に後ろに居た清正が反応する。
「ん?あれは…綾御前じゃねぇか。」
綾御前といえば、確か越後の国を治める軍神、上杉謙信の姉では無かったか。
「加勢しましょう。」
皆が渡りきり、三夜がそういうと綾御前は振り返らず前を見据えたまま応えた。
「頼もしいこと。ですが守るのは私ではありません。彼らを安全なところに非難させるのです。」
その言葉の意味は自分よりも民兵を案じるものだった。此処から見る限り、異形と民兵が戦っているらしい。
「手分けして異形を倒した方が早そうです。」
見える限りでは一箇所だけだが、気配からするとあと二箇所で異形と民兵が交戦中のようだ。彼らのように、低武装で無双奥義という技を持たない以上倒せる見込みは低いだろう。
「清正は手前の見える奴らを…鷹丸殿は東に見える奴らをお願い致します。私は、その奥に居る奴らをやりましょう。」
それぞれ、異形の元に散った。
流石に異形と戦うことに慣れただけに出際が良い。
倒している間に綾御前が民兵を全て避難させたようだった。
「私はしばらく此処に残り民達の岐路を見届けます。」
綾御前とはそこで別れ、また新たに現れた光の中に一行は足を踏み入れたのだった。