淡雪融けて、零れ落ち






鷹丸を加えた一行の前に聳え立つのは不穏な空気を放つ城があった。

あれから、この城にたどり着くのは案外早かった。

「ムラサメは未来にてその配下に強大な異形どもを従え、村雨の各城を乗っ取り支配してござった。どうやらこの時代も、拙者の時代と同じく、ムラサメの手のものに城は奪われてしまったようでござるな。」

鷹丸は目の前の城に眉をしかめ、そう言った。

その話なら三夜も文献の中で読んだことがある。

最も起きたのは戦国時代ではなく、源頼朝が栄華を極めた鎌倉時代だったはずだが。

確か……

「この地の城は5つ。青雨城、赤雨城、緑雨城、桃雨城、村雨城でしたよね?」

そう言うと、鷹丸がそうでござる、と言い言葉を続けた。

「今、目の前にそびえるのが青雨城…。それに続き、道なりに3つの城があり、最後に村雨城がござる。おそらくムラサメは、この地の果て、村雨城に身を潜めているはず…!いざ参ろう、清正殿、悠月殿!」

鷹丸は先導するように、ぐいぐいと前を進んだ。

後ろから三夜と清正が後を追う。

幸い、青雨城の城門は開けっ放しになっていた為に侵入はいとも簡単に出来た。

しかし、こうなると城内での警戒を強めねばならない。

「なんで、悠月は城のこと知ってたんだ?」

不意に清正が疑問を口にした。

あぁ、そのことか、と思い三夜は答える。

「前に、朝廷に保管されている文献の中で見たことがあったのです。」

あんなボロボロな書物だったけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

「…成る程な。」

にしても寒い、と思う。

城に近付くにつれ、落ち着かなかった気候も冬に統一されていった。

城に至っては雹や氷柱が垂れ下がっている。

「最上階には異形の城主が待ち構えているでござろう。」

未来から来たというだけあってこの城について理解してる。

「確実に敵を制しつつ、進むしかないな。」

清正はゴキゴキと己の手を鳴らし、武器を構える。

「城内には数々の罠が張り巡らせてある模様。あの柱から放たれるいかづちの玉には用心いたそう。」

白い光が柱から放たれる。

「確かにあんなの浴びたら一溜まりもないですね。」

光は球体でふわふわと漂いながら一方向に前進してくるが、雷だかが放電してるようにも見える。

清正が玉を避けつつ、己が鎌で打ち返すように斬ると玉が小さく分散した。

「あの玉、武器で弾き返せるようだな。」

「と、すると弾き返した後敵に返すことも…?」

三夜は破魔刀を抜刀し玉を斬る。

すると先の方にいた異形足軽に命中し、当たった足軽は動かなくなった。

「可能みたいですね。」

「そうだな。」

とりあえず、玉を利用しつ異形をばっさばっさ倒していった。

あらかた片付いたな、と思いつつ足を進めると行き止まりになっていた。

「この壁、壊せるようでござるな。」

鷹丸が壁をコンコンと叩きつつ言う。

「氷の壁か?俺がやろう。」

清正が鎌を振り上げるといとも簡単にその壁は崩れさった。

すると奥にはまた異形達が居た。

「異形どもといい、この城といい…尋常にならぬ戦いなれた様子でござるな。拙者もこの身に起きたこと、未だ信じられぬ。だが、この数奇な運命もきっと天の導き。必ずや怪異の謎をとき、ムラサメを討ち果たすでござる!」

「天の導きって流石に言い過ぎじゃないか?」

鷹丸の言葉を聞いた清正が苦笑したが、鷹丸は言い過ぎではないでござる、と続けた。

どうも鷹丸は役者がかった言い方が好きらしい。

三夜は鷹丸の意外な一面に驚きつつ、斬り進んだ。

「この城、数々の罠がしかけられてるでござる。拙者の時代のものとはまた違うようでござるな。力になれず面目ない。力をあせて進みましょうぞ。」

武将四人を撃破し、歩みを進める。

「ムラサメは獣の化け物でござる。不可思議な力で城主達を操り、配下にしていた。この時代でもおそらく…最上階に行って確かめるでござる。」

鷹丸がそう言い辿り着いた場所には最上階に繋がると思われる階段があった。

「いよいよ最上階だな。」

「…長い道のりでしたね。」

にしても、こんな異形の城に後四回も乗り込まないといけないのかと考えると先が思いやられる。

「城主は様々な術を使いこなす強力な異形。全力で参らねば勝利はござらぬ。いざ!」

様々な術って…、一体?

とりあえず、奥の間に城主がいるのは分かるが手前の武将を撃破しないと柵格子は消えず、進むことが出来ないらしい。

主に鷹丸と清正が異形武将と刃を交え、三夜は周りの足軽などを相手にしていった。

ようやく倒すと

ぎぃ___

という嫌な音と共に柵格子が消えた。

鷹丸が前に出、相も変わらぬ芝居がかった台詞を言う。

「世を乱す異形の城主よ。」

現れた城主は随分と顔色が悪い…というか最早青いのではないか、と思わせるほど悪かった。

「クク…なんだ、貴様らは?宝玉の力に刃向かうとは愚かな…。」

「宝玉…!やはり、この時代にも…。」

「宝玉ってなんなんだ?」

鷹丸が前面に出ているため三夜と清正はその後方に居た。

そこで話の内容が分からぬ清正が三夜に問う。

「私も詳しいことは……後で鷹丸殿が話してくれるのでは?」

「そうだな。」

そうこう言ってる間に鷹丸が青雨城主に斬りかかっていた。

「拙者達の勝利でござる。」

勝負が決するのには差ほど時間はかからなかった。

第一、私達必要無かったのではないか、と思うほどアッサリとしていた。

「くっ…」

「青雨城主…強力な敵でござったな。」

「お前一人で倒したのにか…?」

清正がポツリと呟いた。

確かに、一人で倒せる敵が強敵だと言っていたらキリがない。

―――突然、眩い光がさした。

「な、なんだ…この光は!」

「これは…城の宝玉でござるな!青雨城、赤雨城、緑雨城、桃雨城、各城の天守には宝玉が納められているのでござる。」

その光は集結し球体となり、鷹丸の手のひらにのった。

「先の青雨城主の言葉から察すると、異形達はこの宝玉から力を得ているようですね。」

「放ってはおけますぬな。各城を回り、宝玉を集めてのち、ムラサメを討ちましょう!」

こうして一つ目の城、青雨城を後にしたのだった。


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