崩壊の連鎖を阻止せよ
人の話を聞かず鷹丸は風のように二人の前から去ってしまった。
「向こうの茂みの方に消えましたね。」
三夜は先程よりも濃い異形の気配がする方を指差し言った。
「あぁ、行くぞ!」
森を抜けると目の前には川が広がっていた。
が、川は紫色に変色している。
気にせずに渡ろうとした清正を制し、三夜は近くに落ちていた小枝を川に突き刺した。
川から引き上げると、その枝の先は土のようにボロボロと形を残さず崩れさった。
「これは……!」
その光景に清正が息を呑む。
「少し厄介ですね。多分、この小枝のように崩れることはないと思いますが確実に鷹丸殿を探す前に体力が底を尽きそうです。」
やれやれ、一体何をすればここまで障気の強い川が出来上がるのやら…
どうやって川を渡るかが問題だ。
三夜が思案していると清正が不意に指差した。
「あれで川を渡れば良いんじゃねぇか?」
指さされた川向こうには二頭の馬が繋がれていた。
先程から二人は川を渡らねばならぬ、と言っているが補足すると横断、ではなく縦断である。
文字通り川を横に渡るのでは無く、川沿いに沿って向かわないといけない。
「あそこまで、どうやって行くかも問題ですよ。」
確かに馬を使えば己の体力が奪われることはないだろう。
「なら、行くぞ。」
「は?」
何が“なら”なのか考えている間に三夜は清正に抱えられていた。
助走をつけ、清正は己の武器である鎌を使い向こう岸まで跳んだ。(現代で言う棒高跳びの要領)
「っ……!」
何が起こったか理解したのは向こう岸に着いてから十秒後。
「大丈夫か?」
放心していた三夜に声をかける清正。
「…大丈夫です。」
目の前には先ほど向こう岸に見えた馬が居た。
「悠月は馬には乗れるのか?」
ひょい、と早速馬に乗った清正が言った。
「一応は。」
そう返し、三夜も続けて別の馬に乗る。
和仁の散歩に付き合わせられ、馬に乗ることがしばしばあった。
「そうか、なら問題ないな。」
そういうのは、此方側に来る前に確認するべき内容なのではないか、と思った三夜だったがたたえて口には出さなかった。
そうこうしているうちに清正は馬を走らせていた。
三夜も慌てて馬の腹を蹴る。
「悠月、異形が沢山居るから気をつけろよ。」
前を行く清正が言う。
沢山居る異形を避けつつ二人は川を駆けた。
ようやく詰め所に着き、二人は馬を降りた。
と、同時にあの光が現れた。
「相変わらず珍妙だな。」
その光を見た清正が言う。
「そうですね。」
三夜も確かに不思議だと思いつつ相槌を打った。
「さて、行くとするか!」
「はい。」
二人が光の中に足を踏み入れ、次の瞬間見たのは異形武将の姿だった。
「おいおい……また居やがるのかよ。」
余りの異形武将の出没回数の多さに思わず清正が口にした。
三夜は思わず苦笑する。
確かに多い。
後に最初の異形武将の量は少なかったことが分かるが、それはまだ先の話。
三夜は一歩前に出て言う。
「なら、私が倒しましょう。」
先程から清正ばかり体力を使っているため正直最後まで保つか心配だ。
三夜は剣印を作り、呪を放つ。
「万魔拱服、急々律令 早々に退散せよ。」
神気の風が異形を切り裂くが致命傷までは至らない。
深手は負っているようだが、回復の速さが違う。
やはり、この程度では駄目かと思いつつ三夜は清正の腕を掴み、先を急ぐ。
いちいち雑魚の相手をしてたらキリがない。
「なっ…!」
その行動に一瞬驚いたようだが、すぐに意味を理解したようで素直に引かれるままについてきた。
「あそこに見えるのは鷹丸か?」
清正の目線の先には囲まれた鷹丸殿の姿があった。
「そのようですね。」
あれだけ言っておいて結局は私達が助けることになるのか、と思ったが聞きたいこともまだある。
二人は鷹丸を援護するように乱入した。
「貴殿らは…!?」
「んなことより、さっさと倒すぞ!」
清正が叱咤の声を飛ばす。
三夜はというと、破魔刀でざっくざっくと斬り捨てている。
――――――
全てが終わり立っているのは三人だけ。
「何故清正殿と悠月殿が…。」
「秀吉様に探るように言われたんだ」
清正がそう言うと鷹丸は何度か口の中でその言葉を反復し、やはり…。と何かに納得した後、意を決した後口を開いた。
「なら清正殿、悠月殿お話いたそう。あの異形どもは、巨大な物の怪、ムラサメの手のもの。ムラサメ、そして拙者は…この時代より先、未来の日本にいたのでござる。とても信じられぬでござろうな。未来のこの地に、ムラサメは突如現れ、数多の異形どもを操り、村々を襲ったのでごさる。拙者は、ムラサメ討伐の密命を受け、奴を追ってござった。拙者、ついにはムラサメをとらえ、決戦を挑み、この太刀で奴を討ったのでござる。ですが…その直後、拙者は強烈な光に包まれ、気がつけば…この時代にいたのでござる。あの異形の武士ども…この地を襲う数多の怪異…ムラサメはおそらく、死んではおりませぬ。この時代に降り立ち、再び人々を苦しめているのでござろう…!拙者は、このままムラサメを追い、必ず討ち果たすでござる。」
長々と息継ぎせずによく言えるな、と三夜は思っていたがそれは清正も同じだったようだ。
「にしても未来とは、また珍妙だな。だが納得はいく。俺たちも手伝おう。」
転生、というものがあるならば未来から流される、ということがあっても不思議ではない。それを考慮すると彼の言うことは信憑性がある。
「何と?拙者のムラサメを討つ旅にお力添えくださると?」
三夜もコクり、とうなづいた。
「心お優しきお方…!拙者、感服つかまつった!時を越えた共闘でござるな。
ともに戦いましょうぞ、清正殿、悠月殿!」
三夜達は新たな仲間を加え青雨城を目指すこととなったのだった。