絡まり、繋がり、解けて、絡まる






「ん……?」

目が覚めた時、三夜の視界に入ったのは何処か見覚えがある木目の天井だった。

「やっと、目が覚めましたか。」

その声の主を見ると、私より少し年上の青年の姿があった。

「今、何か食べれる物を持ってきますね。」

そう言い、青年は一旦姿を消した。

この時代の青年にしては物腰が穏やかな気がする。

あまり寝起きで働かない頭を動かしながら部屋を見渡す。

青年が出て行った襖は開けっぱなしになっていて、庭の景色が目に入った。

それは“私”にとって、とても見覚えがある庭で…

先ほどの青年の容姿にも何処か懐かしさを感じた。

「粥をお持ちしました。」

青年はそう言い、お盆を手渡してくれた。

「ありがとうございます。あの…、」

そう言葉を紡ごうとして青年に手で制される。

「私も聞きたいことがあります。話は食べ終わってからにしませんか?」

もう一週間近く眠りについたままでしたので…

と苦笑いをしながら更に言葉を続けられた。

一週間もの間、私は眠っていたのか。

どうりでお腹がすくはずだな、と思いながら遠慮なく粥を口に運ぶ。

「……ご馳走様でした。」

粥は、なんと白米だった。

普通はそんなに簡単に手に入る品物じゃないのにどうしてでしょうか。

「お粗末様です。まずは、互いに自己紹介をした方が良いですね。私は土御門家三十一代目当主、土御門久脩と申します。」

ぺこり、と軽く挨拶をされた。慌てて私もお辞儀をする。

「私は……三夜と申します。」

苗字は名のらぬ方が良いだろう。

助けてくれたから良い人だろうけど、裏切られないとも限らない。

「三夜さんですか。」

「三夜、で構いませんよ。」

改めて思ったが私は“さん”付けで呼ばれるのが苦手らしい。

それに久脩さんのが年上なんだから、私みたいな少女につける必要はないでしょう?

そう言うと久脩さんは苦笑いをした。

「なら、私のことも久脩とお呼び下さい。」

「……なら久脩さんで。殿方を呼び捨てにするのは慣れていませんので…。あの、もしかして久脩さんの仕事は陰陽師ですか?」

とりあえず、口にした疑問は彼の職業について。

この屋敷といい、彼の霊力といい…。

「えぇ、そうです。」

「なら、この屋敷は安倍邸、ですか?」

そう言うと久脩さんは目を見開いたが、何処か納得した表情を浮かべ…そうです、と答えた。

「あなたは…貴女の本当の名前は安倍三夜さんですか?」

その言葉を聞き、少し驚く。

「前世は、ですけどね。どうして分かったんです?」

「先日、占術をした際に出たんです。私も、まさかとは思いましたが…」

六壬式盤を指し言った。

六壬式盤は…過去・現在・未来を読む際に使用される占具である。

それゆえに結果が気に入らなかったとしても、一日に占じて良いのは一回限り。

「改めて名乗るとするなら、私は三十一代目安倍家当主です。」

その言葉に私はやっとこの違和感の正体がなんだったのかが分かった。

「何故、安倍なのに土御門の氏を…?」

「確か天皇からその名を賜ったんです。それ以来、安倍家は土御門の氏を代々名乗っています。」

「……なるほど。」

その説明に三夜は納得した。

「貴女は何故、化野の土地にいらしたんですか?」

「それは…、説明すると長くなりますよ?」

「構いません。」

今は物忌みということにしてますから、と続けて言った。

だから、私は自分の身に起きたことを一通り説明した。

前世のことを含めて、なんで私が化野に居たかなど…。

「そんなことがあったんですか…。」

彼も予想はしていたようだが多少戸惑いつつも話をちゃんと聞いてくれた。

今、思うと自分に起きたことを人間に説明するのは今回が初めてなんではないだろうか。

普通にこの様な話をしても齢12の少女の話をまともに聞いてくれる大人はまずいない。

これから行く所がないと言うと

ふと、手を顎の下に持ってきて考える仕草をしたあとに久脩さんが口を開いた。

「もし、宜しければ此処で生活しませんか?」

「い、良いんでしょうか?」

確かに嬉しい申し出だ。

が、彼にかかる負担を考えると些か微妙だ。

「はい。先代は既に亡くなっておりますし、この屋敷に一人というのは少し寂しく感じていたので。それに前世だとしても三夜は安倍の人間でしょう?」

「ありがとうございます。」

三夜は彼の親戚として、旧安倍邸……現土御門邸で過ごすことになったのだった。



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